全方位から殺意を込めて

 「先輩、加勢しまぁす!」

 目を回していたハズのキリキが背後から大声を出して大槌で襲い掛かった。

 黙って襲い掛かれば良い?そう考えるのは馬鹿野郎だ。

 この状況下、極限状況で殺す側も殺される側も関係無く、五感は人生の中で最も鋭く研がれる。

 殺意を持つものがあれば呼吸一つに反応する。衣擦れ一つが鼓膜を響かせる。

 そんな中で大槌を印象付けた声、しかも大声が後ろから来たら、そちらに注意力が否が応でも大きく割かれる。

 キリキへの対応なら出来る。が、俺まで対応する事は出来ない。

 キリキを無視して俺を相手すれば頭をカチ割られる。

 どちらかが狩られるが確実に仕留める。

 相手がどんな武器を持っていようが一息遅れる。

 投擲と斬り付けそれと奥の手・・・を使って襲えば何が出て来ようが狩る!


 「あー、やっぱり本職ッスね……ワザと声を出して注意をバラけさせるなんて………」

 この呟きは本人にしか聞こえていない。


 こちらが考えを巡らせている中、ヘラヘラしていた商人の顔から笑いが消えた。

 考えが消え去って、何度も何度も感じてきた感覚が背筋を通り抜けて消えていく。

 圧倒的に強く、死に遠い人間を殺そうとする時のあの厭な感覚。

 商人が一瞬だけ、大きな鎌を持った死神に、見えた。

 「死んで下さぁい!」

 大槌が揺らぎながらも振り下ろされる。それに合わせて俺も短剣を三本投擲した直後で走り出す。

 キリキは限界だろう、途中からキリキまでもが大槌に振り回されていく。

 「百手類ハンドドレッド変形。」

 商人はキリキの大槌を籠手で受け止め……違う、いきなり現れた身の丈程の大きな鎌を振り抜いてキリキにトドメを刺した。

 「ニタ…リさん、頼みま、す!」

 大槌ごと吹き飛ぶキリキの口元がそう動いた。

 「あぁ、殺すぅ!」

 投げた短剣は鎌の間合いのギリギリ外。

 あれだけの大鎌じゃ直ぐに立て直すのは無理だ。

 「百手類ハンドドレッド変形。」

 大鎌がさっき見た棒に変わって短剣は弾かれていく。

 間合いの圧倒的に足りない短剣で俺は棒相手に特攻を……

 「なんてなぁ…『短剣舞踏』!」

 弾き飛ばされていった短剣が俺の方へ飛んで戻ってくる。

 俺の短剣には毒の他に術式が仕込んである。

 と言っても単純なもので、近くに俺が居る時に遠隔起動で俺の方へと戻ってくるだけ。

 だが、それで十分。

 「もう二本、おまけだぁ!」

 商人の左右、どう間違えても掠りもしない方向へ飛ばす。案の定それをスルーした相手の背後に短剣は飛んでいく。

 同時に弾かれた三本が俺の手元に戻ってくる。それを構え直して投げた二本の術式を起動。

 俺の方へ戻ってくる短剣の軌道には商人。俺側からは短剣を上空へ放って同時に投擲と斬りつけ。


 背後別方向から二本。

 正面から俺が二本。

 上空から一本。

 棒や大鎌の一振りじゃどうにもならない。籠手は手数が足りない。

 どれかがやられてもどれかが仕留める。


 「百手類ハンドドレッド変形。」


 声が聞こえた。


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