駆け出しニューマンは二度驚く(一度目)

 草むらのあちこちから音が聞こえる。

 ガチャガチャと金属をぶつけ合う音、金属が擦れる抜剣の厭な音、そして…………

 「抵抗は無駄と知れ。こちらは100人体制。君らの命運は既に決まっている。

 組んでいた連中も捕まえている。最早退路は無い。」

 堂々とした、精悍な男性の声が響き渡る。ハリのある声だ。

 それに続いて幾つもの金属音と駆ける足音が一つの音の様に聞こえてくる。

 「殺れ殺れ殺れぇ!手前テメェらも死にたくなきゃ仕事しろ!殺せ!殺せなきゃ手前らの首はねぇ!」

 「生憎だな。囚われて略奪を強制された者は保護しろと約束している。

 首に枷の無いものが主犯だ!

 それ以外は保護をするから安心して投降を。」

 金属同士の激しいぶつかり合い。

 驚きで体が動かない。

 「1名発見、保護します。ほら君、こっちに。大丈夫だ。」

 後ろから肩を掴まれた。

 軽装の、とはいっても汚れや傷の無い新品同然の鎧と刃が分厚い妙な剣を持った男だ。

 「安心して欲しい、保安警備官だ。

 君たちを助けに来た。もう安心して欲しい。

 さ、今首輪を外す。」

 そう言って忌々しい首輪に手を掛けようとして……

 「よぉ、兄弟。死にたいのか?」

 首輪と伸びた手の間に白刃が刺し込まれる。

 「っ!お前はっ!」

 保安警備官が体を硬直させた。

 「離れてください!コイツは盗賊団の幹部、捕まればまた逆戻りです!」

 警備官体勢を立て直して、俺を庇いつつ距離を取り、持っていた分厚い剣を構える。

 「首輪の遠隔操作の無効化は数日前の会議で説明したじゃねぇの。『死なば諸共は出来ないようにしておくから首輪を下手に触るな、触らせるな。後で解錠用のツールで安全に開ける』と説明があった筈だ。」

 「何の話を……」

 「盗賊どもの武器程度なら商会謹製の鎧の強度で如何にでも対処できる。その間にそれで制圧しろと講習もした筈だ。」

 「何を……」

 警備官の人が、焦っている?

 それを見て長剣を構えた男は業を煮やしたらしい。

 「変装の魔法が得意な奴がいるって話はもうしてあるんだなぁ!それくらいじゃ逃げられないんだなぁ!」

 剣を構えて横薙ぎ。草が刈り取られて姿が露になる。

 警備官の姿が…警備官だった男の姿がどろどろに溶けていく。

 鎧が汚れた革鎧に。

 分厚い剣は短剣に。

 男の顔は見ず知らずの警備官から、何度か見た盗賊のそれに変わっていた。

 「クソッ!この裏切り者がぁ!」

 吐き捨てるように言いながら短剣を振り回す。

 「残念、そもそも盗賊じゃ無いんだなぁ、これが。

 裏切り者はそっちの協力者の方だなぁ」

 「んの、ざっけるな!」

 短剣を構えて突進する盗賊。

 何をして良いか分からずにその場で見ているしかなかった。

 「残念だなぁ!」

 一閃。

 「MMの幹部は会長の通信教育で最低限の戦闘力と商人としての力を要求されるんだなぁ。

 これくらい、何てことないんだなぁ…」

 盗賊は刈られた草の上で眠る事になった。


 ざまぁない!

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