If?:『悪魔』と呼ばれる魔道具職人の最後の悪夢47

 技術があっても信用の無い技術者に仕事を任せる者は無い。

 そして、幾らそれまで信用を積み重ねていようとも一度の不信で信用の全ては瓦解するという愉快極まりない性質を持つ。



 異様な事だが、僅か一週間に満たない期間で彼の魔道具職人の評判は地に堕ちた。

 職人とその家族と親しい人間が妻や子どもの所在を確認しに家を訪れたが姿を見せず、本人に訊いても返事は無く、邪魔だと部屋に入らせもしない有り様。

 今、行われている仕事の内容は相変わらず不明。知ろうとした者は彼手製の魔道具を使って文字通り手酷く攻撃されて怪我をする始末。

 そうして他の仕事は手付かず。

 中には国家規模の重要な案件も有ったため、その手の依頼主は直ぐさま手を引き、それに影響されて大なり小なり依頼人は手を引き………。

 負の連鎖崩壊だった。



 元々の評価が『そこそこの連中』や、『底辺の連中』が零落おちぶれたところで大して波紋にもならない。

 話題としては面白みがないのさ。

 だが、元が『一級品の連中』や『有名な連中』、『栄誉と名声に満ちた輩』と評されている連中が失態や不祥事、堕落したとなれば、それは津波となり、嵐となる。

 面白い。盛り上がる。大事で楽しい。他者が自分の遥か上、天上から自分と同じか下まで堕ちていく様は嗤えるし、爽快で、で無関係な観客として観劇出来る。

 他人事の悲劇は愉快痛快で大笑い。

 根も葉も無い、自覚された悪意も害意も無い、しかしてそこに害はある。


 唯の人間は悪魔に成らない、成り得ない。

 天使や神だからこそ、悪魔に成り得る。

 さぁ、観劇者達は一体何処まで観劇していられることやら。



『螺旋を刻む』

『螺旋を作る』

『加速をロス無く起こす』

『二重の加速を生み出す』

『頑丈かつ扱いやすい形状』

『最大出力に耐えうる器であること』

『二つの用途を一つに簡潔に纏め上げ、矛盾を生み出さない』

『隙間無く漏れ無く厳密』


動作確認の終了。


 意識が半分程飛びそうになった頃にそれは出来上がった。

 文字通りの心血を注ぎ込んで創り上げた魔道具。

 今までかつて創り上げた幾万もの魔道具の全てを積み上げても至らぬ完成度を誇る大作ではあるが、祝えない。祝ってはいけない。

 世に生み出されたばかりのそれを包み、乱雑に積み上がった材料と器具の中から適当な衣服を掴んで外に出る。

 時間指定や日付の指定は無かった。

 しかし、刻一刻と状況が変化してもおかしくない。今は未だ安全な状況にあっても次の瞬間に事態が最悪に陥ってもおかしくは無い。

 急がねばならない。


 こうして魔道具職人は走り出す。

 夜道を覚束無い足取りで急ぐ様を幾人もの人間が見ていた。

 何事かと野次馬が窓から扉から顔を覗かせもしていた。

 そんな彼は普段なら足を踏み入れぬ裏通りへと足を向け、そうして


 「おい嬢ちゃん!」

 「気をつける!避ける!」

 「オイ、何処に眼を付けてんだ?」


 この後消えて無くなる破落戸と少女達と遭遇した。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る