If?:破落戸と少女の最後の悪夢41
逃げなくては。
敵を討たなければ。
皆にこの悪魔を報せなくては。
命乞いをしなくては。
生きなくては。
頭の中で死んでいった皆さんの姿。そして、そんな考えが浮かんでいるのに、私は何も実行できないのです。
手足一つ、指一本、口一つ、動かせない。
涙一つ流せない。瞬き一つ出来ない。恨みを、憎しみを、憎悪を、視線にして目の前のあの男に向ける事も出来ない。
「まぁ、元々皆殺しにして流してしまおうと思っていたのだが、
さて、君は今後
目の前には生まれてから今までずっと自分を支えてきた足、自分の望むものを掴んで来た腕が転がっていた。
何の抵抗も出来ず、私は私の仲間を殺した奴に運ばれていった。
「さて、では、証拠隠滅とするか。」
右手には手足をもいだ小娘入りのケース。
眼前には死体の山。
血肉だらけで純粋質量として隠滅は困難。
『普通なら』という枕詞が付くがね。
「では、稼働しろ。」
燕尾服の懐から取り出した黒く、丸い球体に魔力を流し入れ、その場から離れる。
悪意で満ちたそれは力に呼応して拡がり、集め、悪意の結果を無かったことにする。
『眼を背けたくなる』と本来なら表現され、目を背けるソレの作り出す光景。
が、私にとっては興味の見出せない、刺激の見出せない光景だ。
この行動の重要性は、仕事をこなした所を然るべき奴が見ているか否か…つまり、監督役がコレを見ていればもう何でも構わない訳だ。
ミギー=シミラはボスの命令で動いていた。
今回自分に直接下された命令は2つ有る。
1つ。例の小娘と破落戸集団に荷物運びの依頼をする事。
2つ、今目の前で淡々と死体を処分している男の仕事の監視と評価。
以上だ。
予め用意してあった荷物を連中に運ばせ、指定した場所で男に連中を殺させる。
目的は至極単純。男、デリット=クライムがボスの前で嘯いていた『モラン=カンパニーは人の命も取り扱っております。』という言の真偽を確かめる為だ。
自分が見付けてボスに紹介した男、デリット=クライム。
確かに目の前で殺害は速やかに、適切に行われていった。
わざわざ一人一人、殺し方を変え、解説を入れ、懇切丁寧に殺戮は行われていった。
消えていく死体を見て、思う。
破落戸と小娘は確かによく働いていた。
使い潰すのは惜しいと思ったが、それでも替えや上位互換は幾らも居た。ボスが殺せと言った。
故に、依頼書でここ迄誘き出した。
そこに感傷も同情も憐憫も無い。
もし、ここで俺が下手を打てば、今まさに消えたのは俺だったかもしれないのだから……。
ミギー=シミラはさっき迄死体が転がっていた広場を見てそんな事を考えていた。
広場には死体どころか肉片一つ、骨片一つ、血の一滴の痕跡も無く、裏通りの何処にでもある光景が広がっていた。
証拠隠滅に要した時間は5分。無駄無く、的確に、淡々とこなしていった。
口には出さないし出せない。が、それに対して私が抱いたのは純粋な嫌悪感だった。
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