If?:破落戸と少女の最後の悪夢38


 「ッ!『火球』」

 指先から握り拳程の火の玉で狙い撃ち。

 一発、二発、三発。

 それと同時に皆も敵を認識して各々自身の渾身を相手目掛けて撃ち出しました。

 炎、ナイフ、電撃、針、礫、分銅、小斧、極小爆弾、風の刃、毒液………………

 集団での集中砲火。

 宙に浮くような驚くべき事が出来るとはいえ、壁をすり抜けたり、魔法や武器を素通り出来たりする訳ではないでしょう。

 致命的…は無くとも、相手が一体どんな武器や魔法を使うか?あわよくば手傷、逃げる隙になるとは思ったのです。


 (皆さん、次撃準備を)

 目配せで皆さんに合図を送ります。

 一撃目の集中砲火は目くらまし。

 本命は二撃目。

 炎や雷、ナイフや仕込み針の弾幕で視覚を奪い、それを躱すか防いだ後、二撃目を確実に当てていきます。

 今度は先程よりも標的を大きく取り、相手が防いでも、躱しても、ある程度命中する様に裏通りの幅ギリギリで攻撃を開始します。


 一撃目の集中砲火による爆音と煙。

 轟音が辺り一帯に響き、路地や地下空間がそれを反響させて頭を搔き乱します。

 更に、煙の中に二撃目がダメ押しとばかりに追い掛け………

 「いやはや、避けてもダメ。防いでもダメ。

 ハッハッハ、弱った!

 弱者が弱者なりに戦う術を心得ている。」

 笑い声と共に、煙が『何か』に薙ぎ払われ、同時に二撃目が見えない壁にぶつかった様に何も無い所で弾かれたのです。

 「が、逃げる選択をもっと早くすべきだった。

 惜しい事をなさった。」

 薙ぎ払われた煙が散っていき、無傷の男が現れる。

 逆さでは無くなったものの、相変わらず宙に立っていたその男には傷一つ、着衣の乱れ一つ無かった。

 そして、男の横には、人影が吊られて有った。

 「選択を誤るだけでなく、遅れればなる。」

 人影は男に首を掴まれて前に投げ出される。

 人影は見えない床に止められることなく地面へと落ちていく。

 私達の目の前に落ちた人影、その全身には斑点が出来、痙攣し、苦痛に呻いて荒い息遣いを聞かせていたが、直ぐに痙攣を止め、『くふぅ!』と大きく息を吐き、吸い込むことが無くなった。

 その人影はよく見知った者だった。

 「『毒殺』

 使用する毒物によっては事故死で片が付く。

 混入のタイミング・混入経路を不明瞭又は偽装すれば、殺人と認識されても自身は容疑者候補にさえならず、意図した相手を陥れる事が出来る。」

 「お前ぇぇぇ!」

 頭に血が昇った一人が突っ込んでいく。

 「ワザワザこうして死体が死ぬ瞬間を見せた意味を考えては如何か?

 どう考えても、激情を誘っているだろうに……。」

 呆れた目をこちらに向けた途端……

 「あ゛ッ、あ゛っあ゛あ゛あ゛あ゛!」

 痙攣して声にならない声を暗闇に響かせて、また一人。


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