If?:破落戸と少女の最後の悪夢36

 目的地は裏通りの中でも少しだけ開けた場所に有り、辺りに人の気配は無く、曇った空が他よりも少しだけ大きく見えました。

 その中心には男性が一人。

 服装はこの場では違和感しかない燕尾服。かなり上等なものと見受けられるのに、それを身に着けているのは小さな黒い色のグラスの眼鏡をかけた、髭がまばらに生えて髪は鳥の巣の様になっている異様に手足の細い長身の男性。

 何処かの貴族に仕えている様な服装なのに、容姿はどう見てもではない、異様なアンバランスさ。

 その男性が荷物を持った我々一団を見て、人懐っこい笑みを浮かべて無邪気にこちらに向けて手を振り始めたのです。

 「オヤオヤ。随分とお早いご到着でらっしゃる。」

 男は手を振りながら、近付く我々に意味不明な言葉を投げ掛けて来ました。

 「手を取り合わんとこいねがう十二の使徒は?」

 意味深な視線を向ける彼が口にしたその言葉が何なのかを、私は知っています。

 「………………11人の儚く哀れな醜い巨人へと歪められる。」

 あらかじめ決められた合言葉。間違い無く私達がコレを渡すべき相手だと断定されました。

 さぁ、この人に渡せばもう御終いです。

 「依頼の品物です。中身は一切触れていませんし見てもいません。品物の無事はそちらで確認してください。」

 足早に男性の前に木箱を置き、それに倣った皆さんも荷物を捨て置き、闇に消えようとしたのですが……

 「おっと、待たれよ皆様方。」

 背中から声。

 あの手合いとはあまり関わり合いたくないのですが、かと言って重要な依頼の相手を無視するのも悪手。

 渋々、しかしながらそれを表に出さない様に薄い自然な笑顔を作って振り返りました。

 「何か御座いましたか?」

 首を不自然にならない程度に傾げて答えたところ、信じられない返答が帰ってきたのです。

 「確認した所、依頼の品物が足りない様子。つまり、未だ依頼は完遂なさってない訳だ。

 そちらを置いてからにして頂こう。」

 「足りない物?」

 表情が崩れたのが解ります。

 依頼の内容は『隠してある木箱をここまで運び込む事。』

 仕掛けの空間には何も無い事を確認してここまで来たので、『木箱を1つ運び忘れた』なんて事は無いですし、懐の依頼書を改めて確認してもここにある物とその依頼の内容は違っていません。

 厳重に封がされていたので、中身が途中で落ちたという事も考えられません。

 我々が来る前に木箱がすり替えられた……あの仕掛けはその存在を知っていて尚相当に解り辛い上に、物量も相当。

 私たちがこうして運んだものが偽物だとしたら、すり替えるには本物の木箱+同じような偽物の木箱をあの狭い裏通りの中で移動させねばなりません。

 それは、難しいと言えるでしょう。

 では、一体何が足りないと言うのでしょうか?


 そんな私の考えを遮る様に、頭上から雨粒が一滴、滴り落ちてきました

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