If?:気まぐれで変わった破落戸達の最後の悪夢13


 『マキナージの魔道具』

 その言葉に胸が弾みました。

 これで両親は喜んでくれるでしょう。

 そうすれば、私もこの上なく嬉しいです、当然。


 その時の私目の前には風景など映っていませんでした。両親が喜ぶ姿と、自分が抱きしめられる姿。この二つが私の目に焼き付き、その向うにある悪意と狂気と憎悪を私は見落としてしまったのです。


 「………ここだ。」

 商人さんの言葉を聞いてハッとなりました。

 辺りを見回し、目当ての魔道具が何処に有るのか懸命に探しましたが…………それらしいものはありません。

 街灯も無く、建物の間を変な匂いの風が彷徨い、歪に切り取られた空は真っ黒で星は一つとして見えない。

 辺りには灰色に汚れた…メイド達が偶にゴミに出しているのを見た事が有る布の様な色の大きな布袋が有ったり、横倒しになったワイン樽から零れる真っ赤なワインが地面に紋様を作っているだけ。

 魔道具のようなモノも……歯車の紋章も、何処にも有りません。


 これは、如何いう事でしょうか?

 まさかもう売り切れてしまった?

 「商人さん、魔道具はまさかもう売り切れて  」

 『しまったのでしょうか?』と言いかけて、視界が真っ黒になって声が出なくなりました。

 「コホッ!ゴホゴホッ!」

 息を呑んだ拍子に喉の奥に埃が飛び込んで言葉が詰ってしまったのです。

 顔に何か覆い被さってしまったという事は解ったので、何とかそれを外そうとしたのですが、今度は身体が動かなくなってしまったのです。

 「え?え?え?え?」

 訳が解らないまま、両腕を誰かに掴まれて後ろ手にされ、手首がザラザラした何かで縛られ、足も縛られ、真っ暗な中、足を誰かに持ち上げられて…つまり私は大工さんが材木を運ぶ様に運ばれている様でした………多分。

 「あの、商人さん?商人さんは何処に! 「るせぇ、黙ってろ!」

 何も見えない、動けない、周囲がどうなっているか、自分がどんな状況にあるか解らない状態。

 先程まで居た筈の商人さんに助けを求めようとした結果、誰かに地の底から抉る様に怒鳴られ、真っ暗な中、口に何かを咥えさせられました。

 酷い悪臭が鼻をじわじわと毒していく感覚が在りました。

 悪臭と怒号、それらのいきなりの衝撃でふと冷静になったお陰で、やっとその時、自分が何か袋のようなもので顔を覆われているという事に気付けました。

 そして、その怒鳴った声は聞き覚えの…いいえ、さっきまで聞いていた声によく似ていました。

 「ム?ムモムモム?(へ?商人さん?)」

 口の中から鼻腔を侵す悪臭と共にモグモグと声を上げた。

 「あ?何言ってんだ?

 あぁ、何だ?ヤケに大人しいと思ったらそういう事かよ………」

 その声は、他の子に意地悪をする子どもの様な声でした。

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