If3?:ミス=フィアレディーにさよならを
目の前の床が派手な音を立てて崩れ落ちていく。
フィアレディー、恐怖の淑女。
君の応用力とその度胸は褒め称えよう。
君の実力と精神力は認めよう。
でもそれでお仕舞だ。
踏み込んだ足が引き金になり、乾いた崩壊音と共に、私の足元寸前まで床板が灼け崩れる。
当然の様にその上に居た炎の中に徐々に沈んでいく教師。
拳は私の喉元を狙っていたが、狙いが徐々に胸、鳩尾、腹部と徐々に落ちていく。
眼下の炎が口を開け、フィアレディーを飲み込んでいく。
とはいえ、無抵抗な訳ではない。
構えを解いて、眼球が動く。
木材の破片ではいけない。直ぐに折れて転落死を一瞬遅らせるだけ。
掴まるだけではなく、掴んで直ぐ襲来する私の追撃を回避する為にも、掴んで自身の体を引き上げられるだけの場所またはものが望ましい。
だが残念。手を伸ばす範囲に床の骨組みが残っている事は
長物も、凹凸も、糸も、道具も。無い。
ただ、一つだけ。
否、一人だけ。掴まれる者が居る。
華奢ではあるが、木材よりも確実に頑丈で、掴みやすいモノがここに在る。
人間、私の足。
もう足元に仕掛けは施していない。下手な仕掛けは火災時の逃走において邪魔…だけでなく、仕掛けた物の熱伝導次第では仕掛けが焼き鏝と化して歩行の障害になる。
身軽に。故に手元の小さなナイフと針しか懐には無い。
掴まれてしまえばこちらもバランスを崩される。狙いも正確でなくなる。
そもそも攻撃しようにも自分の足を掴まれていては下手な攻撃は出来ない。
逆転のリスク。でなくとも、こちらも足を文字通り引っ張られて床下に道連れの相討ち……が考えられる。
『さて、逆転か、道連れか……どうなるかな?』と、考える必要は、全く無かった。
女は私の足に視線を向け、辺りを見回して状況を分析し、何もせずにそのまま黒煙と炎の中へと落ちて行った。
悲鳴一つ上げず、悪足掻きせず、私の眼を意図的に見ない様にして……だ。
その意図は解る。
死を見せないため。死なせないため。
私という教え子に自身の死を残さないため。そして、将来に希望を残すため。
最早彼女にはシェリー=モリアーティーを止める術は無い。だからシェリー=モリアーティーに賭けた。
自分で踏みとどまる様に。
その時に自分の最期が苦痛にならない様に。
それが教師としての最期の矜持。意地だ。
だが残念。君が思い、希望を抱いている相手はもう居ない。
ここに居るのは
君がやった事は、幾千幾万幾億を殺す殺人鬼一人を殺す事が出来たかもしれない好機をフイにしただけだ。
元々出来たかどうかは別として……な。
轟々、業々、豪々と燃える火炎の中に消えていった教師は、もうこの先を見る事は無いし、IFを想像する事も叶わない。
さようなら、ミス=フィアレディー。
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