If3?:伝染~毒蛇は暗躍する~


 ルーネェを見失った後、諦めて部屋へ戻った私は着替えを済ませて軽く今日の予習をして、食堂へと向かった。

 道中は特に何も無く、誰とすれ違ったかなんて憶えていない。

 如何でもいい有象無象の貴族の娘達。そんなもの、いちいち憶えてられない。

 皆行儀良く、礼儀正しく、虚ろな何処にでもいるお嬢様の偶像ハリボテ

 面倒な一日がどんどん進んでいく。

 食堂に着くと、偶像が幾つも集まり、自分達の食事を盆に載せて準備をしていた。

 上級御貴族様はここの食事を貧弱だ何だとブーブー文句を仰っているが、私はそうは思わない。

 そりゃぁ、何処だかで食べたコース料理やら、何度か行った社交界の立食パーティーと比べれば勿論数皿しか並ばないここの食事は貧弱に見えるだろう。

 私としては家の食事も似た様なものだし、正直、ここの食事は料理人がこだわっている上、授業の一環として色々な地域の食材が食べられる分、レパートリーが多くて美味しい。

 同じ様な食事をずっと毎日って言うのは飽きる。まぁ、『食べられる分有難いと思いなさい』って父様とーさまに言われるだろうけど、それはそれとして、飽きるって言うのは正直な思い。

 色々知らない物を食べられて、しかもそれが美味しいなんて最高じゃない?

 それに、どうせ同じものを食べるなら文句言って不満顔で食べるより、楽しく味わう方が良いでしょ?

 どうせメンドーなら、楽しい方へ………でしょ?

 今日は小さな粒状の穀物。多分、香辛料か何かと一緒に炊いたのかな?それと温野菜。紫色の葉が重なった葉物野菜・スティック状の緑色の野菜・赤くて丸い…蕪?それと、知らない色合いの蒸し肉。後は浅葱色のドロリとしたスープ。そして、白と赤のソースが載った小さな焼き菓子。

 香りが食堂中に拡がる。

 控えめに言って凄く美味しそう。

 テーブルマナーやら御機嫌伺いやら面倒だけど、それを加味しても有り余る楽しさ。

 さて、頂きましょう。



 そう思って直ぐ。食堂に大きな音が響いた。

 金属の何かがぶつかる音。

 思わずそっちを見ると、スプーンが落ちていた。

 落としたのはエムロード=メートス。食堂中に音が響き渡ったから、視線が集まっている。にもかかわらず、本人は落ちたスプーンに目もくれない。

 どころか、動かない。

 「ミス=メートス?如何なさいましたの?」「顔が真っ赤ですのよ?」「手も真っ赤。火傷しましたの?」

 周囲の人間の表情が徐々に硬く、不安そうなものに変わっていく。

 「ミス=メートス?ミスメートス?如何しまして………」

 その疑問に彼女が応える事は無かった。

 今迄椅子に座っていたのは人形であったかの様に、筋肉も骨も無い様に、地面に溶ける様に崩れ落ちていった。

 「ミス=メートス!?如何されましたの⁉」「顔が真っ赤ですのよ!」「凄い熱ですの!」「ちょっと、起きて下さいまし!」「どうしましたの!しっかりして!しっかり!誰か!先生を!ミス=メイデイを呼んで!」


 真っ赤な顔で息も絶え絶え。身体を痙攣させ、ミス=エムロード=メートスは今日の朝食の時間、倒れた。


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