If3?:伝染~ディーゼス=リリアンの朝~
ディーゼス=リリアンの朝は早い。
窓から射し込む陽の光を浴びて目が覚めると、布団の中のパラダイスに籠城して、来てしまった逃れられない朝と言う現実から逃避すること無く、直ぐに、文字通り起床する。
校則に反することの無い衣服に袖を通し、寝ている間に少しだけ乱れたブロンドの髪を整える。
これで最低限の準備完了。
未だ起床していない隣室や下階、上階の人間を起こさない様に扉を開ける。無用な刺激で反感を買いたいとは思わない。
キー…
静寂そのものな廊下に、古くなった
少しだけ開いたドアの隙間から、頭を少しだけ出して目を凝らす。
無人、無音の廊下が左右に広がっていた。人の影は無い。
今度は隙間に耳を押し当てて耳を澄ますが、誰かが起きて身支度する様な音も聞こえない。
いつも通り。
ディーゼス=リリアンは少し開いた部屋の扉を慎重に開け、外に出た。
無人の廊下を静かに歩いて行った先は水道。
蛇口を捻り、乾いた流しに水を蒔き散らす。
飛び散る水を両手で掬い、顔を洗う。
これが日課。
彼女がこの学園に来てから毎日やっていることである。
こうして見ると、中々勤勉そうに聞こえるが…………
(あーあ、今日も退屈な授業。剣術とか衣装とか化粧学んで何になるの?他のお嬢様への媚売り。如何でもいい花とか服とか男とか別のグループの悪口にテキトーな相槌打って愛想笑いってホント疲れる!授業の後で眼をキラキラさせて質問して真面目な生徒のフリ。あーぁ………めんどくさっ!)
ディーゼス=リリアンの正体は怠惰の化身の様なものぐさだった。
(
彼女の父は貴族ではあったが、僻地の小さな領地を任された貧乏貴族。
地方ではあるが、そこそこ、まぁまぁ、それなりに治めている領地。
治安はまぁまぁ。偶に泥棒が出る位。
リリアン家は豪華絢爛では無いが、それなりな豊かさでずっと在り続けていた。
静かで、のどかで、何も無い。
皆、日々を平和でのんびりと生きている。
故に、皆、今日と明日に差異は無い。一年後も百年前も同じ場所。
故に貴族としての地位は低いまま。ド田舎の貧乏貴族を抜け出せずに居た。
故に、他の貴族と社交場で出会えば鼻で笑われるだけならまだマシと言うもの。出会っても存在すら認められず、そもそも『僻地の貧乏貴族は貴族に非ず』とばかりに追い出されることもあった。
故に嫉妬心と
だからこそ、貧乏貴族を脱出すべく、娘をここ、アールブルー学園に送り出していた。
身分の高い貴族の娘、ひいては親とのコネを持ち、のしあがるために。
身分の高い貴族の子息と縁談をする時に箔を付けるために。
それなりに豊かでありながらも、欲望と野心、嫉妬心が男を狂わせていた。
ディーゼス=リリアンはそんな父の野望を背負ってここ、アールブルー学園に来ていた。
(まー、どーでも良っけどねー。)
……………父の野望を背負ってここ、アールブルー学園に来ていた!
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