If2:あと一人
準備はしておいたと言っただろう?
刃物なぞ届かなければ意味が無い。
気付かれなければ小石一つでも脅威になる。
使い方次第という事だ。
表面が滑らかで細長く、黒い布切れ一枚に丈夫な糸を縫い付けて伸ばす。そうしたら布切れを階段踊り場の寸前に敷いておく。糸を伸ばして階段手すりを交差させて、糸の一端を上階階段手すりに結び付けておく。
後は相手が布切れを踏んだ瞬間に手すりの糸を引っ張る。
滑らかな布を踏んだ状態で糸を引けば、足元が滑って後ろへ真っ逆さま。
まぁ、油断して、足元が疎かで、一段飛ばしで駆け上がり、手に何かを持っていて手すりを掴んでいない状態でもない限り、上手くいかないのだがね。
相手への殺意で高揚していると、自分が殺される事を考えなくなる。
相手を殺す算段を立ててはいるが、『自分が殺されるかもしれない可能性』『殺されない様にする算段』は考えられない。
だから、暗殺者を自決させず、かつ確実に仕留める時には敢えて標的を殺させるのが効果的だ。
正確には、殺しの直前で仕留める。
今言った通り、殺す寸前が最も殺しやすいから………な。
失敗した時のリスクこそ高いが、相手の殺意に怯まず動じない精神力と冷静な分析・対処能力が有れば最も効果的な不意打ちになる。
憶えておきたまえ。いざという時にこれは役立つ…………………。
私は、何を言っているのだろう?
『憶えておきたまえ』?誰に言っている?
誰に教える必要も無いし、教える相手も居ない。人生最後に聞かせる台詞にしても、階下で伸びている小娘には聞こえない。
踊り場の糸と布を折り畳んで懐に仕舞い、階段を降りて状態を確認する。
小娘の首筋に人指し指から小指を真っ直ぐにした状態で手を当てる。
高熱を纏って赤みを帯びた首筋からは脈が力強く、速く打つのが感じられる。
生きている。
完全な不意打ちとは言っても、人間には反射的な防御反応がある。
しかも落とした場所は踊り場寸前。要は落ちた距離は階段0.5階分。
巧く事が運んでも、脳震盪で動けなくなるのが関の山だ。
が、それで構わない。寧ろその方が、都合が良い。
ここで一人殺すよりももっと良い。否、悪いと言うべきか。
さて、一人目は首を折って終わらせた。
コレはもう起きて反撃する事は無い。
さて、最後の仕上げだ。
と言っても、血の気の多いあの脳筋教師の事だ。始末し終えるまでの時間は掛からない。
嗚呼、退屈だ。
目新しい光景や刺激は無い。特に障壁が在る訳でもない。劇的な成長なぞ最早私には無い。遣り甲斐も絶無。
今まで飽きる程、呆れる程やって来た事を繰り返しているだけ。
嗚呼、これを終えて、私は何をしようか?
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