If2:逃亡の果て
力の限り走る。
肺が締め上げられる様に痛み、足が突っ張り、全身の動脈が触っている様にどう動いているか解り、関節がズキズキと痛む。
それでも力の限り走る。走らねば死が訪れるから。
確実に追いかける。
携える剣は重い。が、父から貰った練習用の剣と比べれば軽いと思える。
足音を静かに、確実に、慌てず騒がず足を運ぶ。
先程の一撃は未だ尾を引いている。身体は少し火照り、手足は少し動きが鈍くなってきた。しかし、少し乱れ始めた呼吸を整えて、真っ直ぐ前を見る。
先程より着実に距離は縮まっている。こちらがペース配分を間違えなければ確実に捕らえる事が出来る。
適切な力で剣を握り、適切な力で走れば確実に倒せる。
私は今まで研鑽を重ねて来た。
あんな奴に遅れはもう取らない。
私は騎士として、皆の羨望と期待に応えなければならない。
負ける事は悪であり、それが名家の人間でなく、弱者の家であれば尚更だ。
奴を倒して私が強い事を証明しなければならない。
私は気高く誇り高く、凛々しく逞しいエスパダ=ソド=エジール。
そう、在らねばならない…………?
………私のスピードは落ちていない。だというのに、徐々に近付いて行った距離が離れていく。気のせいかとも思ったが、矢張り足取りが力強く、速くなっていく。
最後の悪足掻き?だとしても、今、取り逃がすのは不味い。
教室内に隠れられたり、階段で上階に逃げられたりしたら折角補足したのにまた見失ってしまう。
弱っている今、確実に仕留めさせて貰う!
息を深く吸い、吐く。
吐息の熱が顔に当たり、熱を感じる。
剣を固く握りしめ、離された距離を詰め返す。
もう持久戦に持ち込む体力は間違いなく無い。
最後の最後の悪足掻き。それが終わった瞬間がお前の最期だ!
真っ直ぐに駆けていたモリアーティーが急に消えた。
違う。薄い暗がりだからそう見えただけだ。この先の角を曲がって行った。
この先に在るのは階段。上階に逃げて隠れる気だ。
「ここで終わらせる!」
こちらも息を弾ませて全力疾走。
角を曲がり、階段を一段飛ばしで駆け上がる。
上からドンドンと地団太を踏むような足音が聞こえる。
さっきよりも近付いている。あと少し!
そうして踊り場に差し掛かろうとした途端、上を見上げた。否、何故か天井を見上げてしまった。
体が軽くなり、足を踏み込もうとしても力が入らない。
「え?」
その後何かが転がり落ちる音と金属音が聞こえ、何が起こったか確認しようとしても体が動かず、目の前が真っ暗になった。
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