If2:破滅を知る者


 私は負ける訳にはいかない。

 私は騎士の子。

 力の象徴であり、剣であり、盾であり、羨望の的。そんな誇り高く、美しく、荒々しく、凛々しい者達の血族。

 私はその中で、圧倒的であった。

 選ばれた者の中でも更に選ばれた存在。

 負けは無く、何時だって余裕を持って勝ち、相手に手を差し伸べられるそんな圧倒的上位の存在。

 負けは無い。

 地面に伏すことも屈辱も無い。敗者を見下し、手を差し伸べる。

 あるのは勝利と言う栄誉、そして快感。


 それが日常。通常。普通の事。

 なのに、目の前のこの女は私を侮辱した。

 たった一度の偶然。だが、許さない!

 私は負けないんだ。

 負けてはいけない。

 アレは何かの間違い。偶然。事故。次に戦えば間違い無く私が勝つ!

 私に勝って嬉しいか?楽しいか?誇らしいか?

 卑しい下民が。

 この私の顔に泥を塗るなど許されない。

 この女には絶対ここで徹底的に教えてやる。

 私とあの女の違いを。

 才能も、美貌も、勉学も、血筋も、気高さもそして剣術も!全て私が優れている事を証明する!

 前に喰らった不意打ちのカウンターで腫れ、熱を持った顎を摩りながら剣嬢は校舎を探し回っていた。




 さっきの輩よりは警戒心は有るらしい。

 ただ、圧倒的に足りない。

 経験、技能、創造力、観察力、恐怖心、何もかもが足りない。

 才能が有ると自信を持っている、負けた事が無いと胸を張っている。

 が、そう言った事柄は意味を持たない。

 才能が有ると豪語する輩は自分の知る範囲でしか才能が有ると豪語出来ない。

 君は、自分の知らない鬼才天才が世界に居ないと断言出来るかね?

 自分を負かす人間が居ないと、相手にさえしない連中がこの世に居ないと断言出来るかね?

 存在しない事の証明。悪魔の証明は困難を極めるのだよ。


 自分が生を受け、物心ついてから暫く、自分に敵う者は居ないと確信し、実際、自分を超える者は居なかった。

 誰も彼もが自分の行った凶行に気付かず、不幸な事故と考え、自分に対して疑いを抱く者は無く、恐怖を抱かない者は無かった。

 それ故に油断をしていた。…………なんて事は無かった。

 慢心無く、警戒し、本気で相手を叩き潰そうと画策した。

 己が持つ組織力、財力、知能、謀略全てを惜しみ無く使った。

 都市一つを消す以上の手間を掛けたと確信している。アレを個人ではなく都市や国に使えば確実にそこは滅んでいた。

 そんな事をした輩は最終的にどうなったか?

 破滅したのさ。徹底的に……な。


 慢心が欠片も無かったとしても、破滅は起こる。

 慢心だらけの彼女には一体、どんな出来事が待ち受けているのだろうかね?



 警戒心を抱いた剣嬢を後ろから見て、そんな事を考えていた。

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