If2:死因は単純

 剣の構えや警戒の仕方は拙いものの、神経を尖らせて周囲を観察している。

 光、音、匂い、違和感を観察して、初動で先手を取ろうとはしている。

 そして、あまりに温過ぎる殺意を撒いていた。

 総評として、これが『騎士』だと言うのなら滑稽過ぎる。


 愚かで、低俗で、無様な力を振り回して己よりも明らかな弱者へ力を振るって強いと認識している。

 健気だ、そして、醜い。

 『騎士』というものは何時からこんな盗賊もどきになった?

 勝てると確信した相手に寄ってたかって殺人。

 品性の無い盗賊とやる事に変わりが無い。

 嗚呼、こんなものを相手にして、一体私になんの意味が有るのだろう?


 ………………取り敢えず、残る二人を始末しよう。

 踵を返してその場を後にする。

 この場でやる必要は無い。

 さて、最終調整をしておこう。


 「!」

 私が去った後、ハッとなって私の居た場所を探し回る剣嬢が居た。

 「………………ここに、居た?」

 厭な予感と不整脈が手に在る剣を更に重くした。




 剣など無くとも人は殺せる。

 十二分な証拠。証言をする証人。そして、私の計画に気付く名探偵の不在。

 それだけあれば剣が無くとも人が殺せる。つまり死刑執行のサインが貰える訳だ。

 ………と言っても、今回はそんな手間暇は掛けない。

 そもそも裁判所の天秤は狂っているし、そもそもそんなモノを使ってわざわざ正々堂々殺害する必要が無いし、そもそも、今回の計画の趣旨にそぐわないがね。


 ギィ


 おっと、来客だ。

 背後から床板が軋む音がした。

 構えや歩法の基礎はある程度何とかなっているが、環境要因まで配慮出来ないのは頂けない。

 現在、校舎一階。職員棟とは反対方向。

 廊下を徘徊している所を剣嬢に見つかった。足音に気付いて背後を振り返り、私の仕舞ったという驚愕の表情は月明かりに照らされていた。

 「見つけた!モリアーティー!」

 気付かれて一瞬の躊躇い…その後、剣を構え直して突進してきた。

 距離は12.68m。ナクッテから剣を接収しなかったが故に、今私は剣を持っていない。

 向うは武装中。しかし、その分動きは鈍い。

 こちらは身軽。しかし、その分攻撃の間合いと殺傷力は無い。

 ならばやる事は一つ。逃げる!

 剣嬢に背を向けて私は躊躇い無く全力疾走。怯える様に逃げ出した。

 「待て卑怯者!」

 剣を構えつつ、剣嬢が逃がすまいと追いかけて来た。

 丸腰の輩相手に剣で武装して襲い掛かる卑怯者が何を言っているのやら。と思いつつ。

 「止めて!止めて下さい!来ないで!」

 息を切らしつつ全力疾走を始めた。


 怯え、抵抗出来ない相手を一方的に蹂躙する。

 気持ちが良いだろう?心躍るだろう?

 そして、思考が単純になるだろう?

 それが君の死因だよ。

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