If2:三対一
複数人相手に立ち回る際の手法は幾つか有る。
一つ、こちらが不意を突けるなら可能な限りの人数を重傷まで追い込む。
戦力と士気を削りつつ、怪我人という物理的、精神的荷物を相手に押し付ける。
二つ、単純に実力で相手を倒す。
私としてはこの方法で殺すのが最も手っ取り早い。
特に今回のケースにおいて、まともに私を相手取る事が出来る、警戒すべき輩は居ない。
素人が三人なら素手で殺せる。
が、今回はしないので。
三つ、一対一や三対一でない状況を創り出す。
複数人相手が厄介な理由は、一人を相手する間に他が後ろや横からやって来る事だ。
背後を取り、武器を持っていれば、例え子どもであろうと戦士を殺す事が出来る。出来てしまう。
だからこそ、複数人相手の時は一人一人を相手取れる様に立ち位置を考える。
または…………
私は迷うこと無く生徒二人へと向かう。
月光に照らされて鉄剣が揺らぐ。
丸腰が剣相手に迷い無く突撃するとは思わなかった。だからこそ、未熟な剣に更に動揺が上乗せされた。
「殺せェ!」
一瞬の虚の後、慌てた教師が怒鳴る。
「ハっ!……………あっ!」
「喰らいな………………きゃぁっ。」
怒声で我に返った二人が目の前に迄迫った私に剣を向ける。
距離、68.9cm。
この距離は剣の間合いで、この身体だとこちらの拳は届かない。
しかし、振るわれたのは一瞬の虚からの不意の剣。
素人二人が廊下に並んで私を同時に攻撃する訳だ。
ガキィン!
鉄剣が二本、私の眉間寸前3㎝(実は余裕だが)で衝突して薄明かりの中、橙色の火花を散らす。
互いの剣を打ち、互いが体勢を崩して道が開ける。
考えもせずに斬るとこうなる。
これで二人はこの瞬間完全に戦力としてカウントが0になる。
「調子に乗るな!」
後ろから衝撃と共に殺意が近付く。
脳筋教師が魔法で距離を詰めて来たのだ。
が、
「チィ!お前達、邪魔!」
体勢を崩した二人を教師の盾にして廊下を塞ぎ、私は廊下を全力疾走。階段へと走る。
複数人相手の時は一人一人を相手取れる様に立ち位置を考える。
または…………互いが互いの障害になる様に立ち回れば良い。
あぁしてロクに連携や実戦経験を重ねていなければ、互いが互いの攻撃の軌道を理解せず、互いの攻撃を邪魔することになり、更には相手と自分の間に誰かが割り込む形となって勢い余って同士討ち……なんて事を起こせる。
足音を消しながら校舎を縦横無尽に動き、完全に連中の認識外に立つ。
現在の私の状況は表面的には『三人の凶器持ちに襲われて逃げる丸腰』というモノ。
さて、では問題だ。
次に連中がやる事は何かね?
ヒントは『死人に口無し』だ。
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