If2:真夜中の剣騒


 先程私が剣術の授業でボコボコにした………仮称:ナクッテに連れられて、私は食堂から階段を降りていた。

 相手は丸腰。特にこの場で害意を加える気も無さそうだが、敢えて連れていかれよう。

 特に今回は拙いながらもお膳立ては済ませてあるようだし………ね。

 「先程の件について我々には互いに誤解があったのではなくって?

 我々は厳格に、真面目に、粛々と学びに励んでいただけでしてよ?

 でも、勘違いをされてしまったみたいで、こんな夜中ではありますが、誤解を解くために和解の茶会でしてよ。」

 『何の用か?』とこちらが問い掛ける前に、向こうからぺらぺらとまくし立てるように話して来る。

 『茶会に誘う為の誘い文句』というよりも、『大根役者が台本を急いで読み上げる』と言う表現が近いな。

 台本を作った脚本家にも正直言えば、酷評を叩き付けたい。

 『互いに誤解があった。』と言う表現は先ず私の方に誤解が有る事前提でなければならない。

 無いよそんなモノ。君達が文字通り刃向かって来たのだろう?『互い』では無く『我々』がこの場合、一番表現として自然だ。

 ただ、それはこちらから見た場合の自然だ。

 あの連中から見れば悪いのは至極当然、1+1=2であるが如くシェリー=モリアーティーであり、『互い』という表現が最大限の、血反吐を吐く譲歩なのだ。

 が、それはそれとして、自分達が悪さをした自覚が無くとも、相手がその言動に対して最悪な印象を抱いて警戒心やその他悪感情を抱き、その後のストーリー展開が滞る可能性に辿り着ければ血反吐だろうが血涙だろうが臓物を吐こうが関係無くこの表現は避けなければならない。

 私がこれから相手をする輩の1人に確か戦闘のプロの家系が居たかと思ったのだが……騎士と言うのはただ鎧を着て馬鹿デカい剣を振り回すだけの職だったかね?









 倉庫の掃除の時、黴と埃だらけの空間内に比較的新しい足跡が見えた。

 それ自体は何と言う事は無い。これだけ埃が積もっているが、使用頻度自体は然程低くないこの場所に人が立ち入れば、それは別段おかしい事では無い。

 が、例えば、その足跡が切断された様に途切れていたら不審に思うのは必然だろう。

 埃の中に足跡が有り、足先部分だけが木箱に掛かり、踵部分だけが倉庫の入り口から射し込む光に浮かび上がっていた。

 単純に『足跡が出来た後に木箱を移動させただけ』と言えばそれまでだが、その場所は倉庫の端も端、行事用の横断幕や旗、ポールや簡易テントと言った著しく使用頻度が低いものばかりが置いてあった。

 そんな場所に置いてある木箱が、新しい足跡を潰すかね?

 この学園のスケジュールはシェリー=モリアーティーの記憶の精査時に調べた。

 結果、ここ数カ月中横断幕や旗、ポールや簡易テントを使う様な行事は無いと記憶している。

 誰かが最近この木箱を動かしたのさ

 では何故、使われる筈の無い場所に誰かが立ち入り、木箱を動かして立ち行った際に出来た足跡が潰されているのか?



 そもそも。何故、私がそんな使用頻度が低い場所を物色していたか?と言われれば、『鉄製の剣が埃を然程被っていなかったから』だ。

 我々が授業で使うのは木剣ばかり。鉄製の剣は幾らナマクラとはいえ、授業ではあまり使われない。

 何故だろうかと思ってあちこちを物色している内にこの木箱を見つけて………。


 ガコッ


 木箱を開けると、中には鉄製の剣が5本程入っていた。

 と言っても、その剣はナマクラの鉄塊では無く、明らかに人を殺傷せしむるモノだったがね………。



 おっと、もう目的地らしい。

 「ここでしてよ。」

 そう言ってナクッテが指差したのは校舎の一室だった。

 「中で二人共待ってましてよ。さぁ、お早く。」

 そう言って不自然に張り付けられた笑顔をこちらに突きつけ、問答無用で部屋に引きずり込まれる。




 二振りの剣が私の首へと向かって来たのは直後の事だった。

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