If1:ルールと罰

 バリバリ モシャモシャモシャ ザクザクバリバリモシャモシャ

 クッキーを咀嚼する音が聞こえる。

 気分最悪。不機嫌極まる顔のまま、七枚目のクッキーを紙袋から取り出す。

 この学園は選ばれた貴族の中でも特に高貴な者が集まる学園である筈。

 それだと言うのに、何故あんな場違いが居て許される……おかしいでしょ⁉

 私の様な成績優秀眉目秀麗才色兼備雪月花の如き人間は許されて当然!

 何故!!あんな汚い豚が!この場所に!居る事が許されているのですか⁉

 才能も無い容姿も劣る学も教養も無い輩を受け入れるなど言語道断!

 排除せねば!




 「成程。これがここの校則ルールか……………。」

 懐に隠してあった手帳を開き、私は読書に勤しんでいた。

 と言っても、生徒手帳を…だがね。

 先ず私が行ったのはこの学園の校則の確認だった。

 ある程度体の持ち主の記憶を覗けるとはいえ、この状態、エクソシストの言う所の悪魔憑きとでも言うべき状態のメカニズムが解らない以上、覗いた記憶の真偽を確かめる術は無い。

 これからは、あくまで参考程度に、その上で記憶の真偽を見極める必要が有る。

 という事で、記憶に存在した手帳の場所を探してこの記憶が真である事を確認出来た。

 それと同時に、この学園の決まり事を見つける事も出来た。

 未知の場所、未開の社会や地で最初にすべきは、何か?

 その場所のルールの把握だとも。

 ルールを知らねばそれを守れず悪い意味で目立ち、最悪、誤ってルールを破って制裁を受ける可能性や、いきなり死ぬ可能性が有る。

 ルールを知り、それを厳守する様に周囲に見せて集団と一体になる事で行動を起こしやすくなる。

 まぁ、実際ルールを守るかは別として、何事も知っておく事は得になる。




 アールブルー学園 校則

 アールブルー学園の一員たる者達が、淑女たる者達が、一員として、淑女として有るべき校則であり、本要項は本校の者達の誇りと矜持であり、守ることが当然であり、守らざるは有り得ない。

 心してこの手帳を持ち、その重みを自覚せよ。


・本校に制服は無い。召し物は見苦しく無い物を自分で考え、日頃身に着けよ。

・無闇に魔法を行使してはならない。魔法とは弱気を助ける為のものである。

・消灯時間は厳守。夏と冬でそれぞれ時間を変えるために厳重に注意せよ。

 なお、消灯時間外に無闇に外に出る事は禁ずる。

・許可無き部屋への飲食の持ち込みを禁止する。

 節制は美徳である。

 律する心を持って日々を過ごす事。

・本校敷地外に出る際は教師に申し出た上、必要書類を提出後、外出する事。

 許可無き外出は厳罰を与える。

・本校敷地内の備品や設備の破壊は厳禁とする。

 本校は淑女の叡知と教養の体現である。

 破壊はそれを踏み躙る事と心得よ。

・他者を害してはならない。

・教師、監督生への不敬には厳罰を与える。

 両者は本校をより良いものとする為に有る者である。

 それに対する不敬は淑女の全てへの不敬と心得よ。

・監督生は成績上位者の中から選び出される。

 監督生となるべく、各々全力を賭して励むべし。

・本校の生徒手帳は本校の矜持と淑女の心である。


 なお、本手帳の紛失が意味するは、その者が淑女ではない事を示すものである。




 この程度を守れないのなら淑女ではないねぇ。

 僅か495秒前にこれを破っていた輩を見たばかりだがね!

 ………………あぁ、そうだ。

 ルールを知っていると益にになる事で、言わなかったことが一つ有る。

 ルールを知り、守る事で集団に溶け込める。

 そして……ルールを事で、自分で何もせずとも、相手を集団によって罰させる事が出来る。

 殺人における犯人は自分でなくとも良い。

 社会や集団、法律が殺しても、『死』という結果は変らないのだから。

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