名演1
以前、『手段は選ぶべきである』と言ったのを覚えているかね?
手段は選び抜き、最善を征くべきであるという意味で言った。
が、しかしだ。
使うものは選ぶべきではない。
そこに何かものがあり、どうにかして使い途を見つけて使うことは重要な意味を持つ。
特に、我々は追い詰める側でなく、力有る者の側でもない。要は、余裕は無い。
使えるならなんであろうと使え。使えないと考えたら使い途を考えろ。
どのような劇物であれ使い方を考えれば医療の薬に転じさせる事が出来る。
どんな平和利用を願われた爆薬も、使い方を考えれば幾千を超す命を殺す事が出来る。
医者が『毒は使えない』とは言っていけない。
犯罪者が『平和の道具は使えない』とは言ってはいけない。
可能性を殺す事は何よりも重大な計算ミスだ。
男の体から力が抜け、馬車が再び動き始める。
馬車から降りていた三人が大急ぎで馬車に乗り込み、加速し始める。
「だぁァあぁぁァぁれがっ!ゴミっ屑ゥッデスかぁあああああああぁぁァァァァッァアアアア!」
珍妙なミュージカル俳優の呪文と共に男の体に伸びていた鋼線が、御者の席へ引っ張り戻される。
「おぉ…助かったっす………………」
「恩に着るにー。」
「ぬぅ。礼を言う。」
「運転、頼むのー。」
「オォォオオオオオおおお覚えッテナッサーい!」
持っていた小型の銃を懐に仕舞い、絶叫しながら手綱を握った。
三頭身だった。
少し前、学園にて。
シェリー=モリアーティーは取引をしていた。
「貴女が彼ら…私達の役に立つというのであれば、無事を保証しましょう。」
相手はこの学園の学長。先刻我々を爆弾で吹き飛ばそうと画策していた……この一連の面倒事を創り出した張本人である。
「ドォーしって、私がッ!アナた達に協りょーくすると思っているのデッスッカ!?
小娘と薄汚いゴロツキに貸す力は無くてよ。」
椅子に縛り付けられた状態で眼だけは未だ死んでいない。
「……………何か勘違いしていませんか?
『役立つなら無事を保証する』とは言いましたが、『力を貸して欲しい』なんて一言も言っていませんよ?
既にあなたは学園のトップでは無く、汚職に手を染めた犯罪者。お尋ね者です。
捕まえて然るべき場所に突き出せば利になりますが、無い力を借りようなんて気はこちらには一切ありません。
役に立たないものは、切り捨てます。」
その目に一切の慈悲と情けは無い。
このまま行けばこの学長は汚職を行った罪人としてその罪を白日の下に晒されるだろう。
学長の眼が一瞬臆する。
その場にいる者全てが凍り付く。
『切り捨てる』
その言葉がもし、自分に突きつけられたのなら。
その時の事を考えて戦慄してしまう。
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