ダートムーアに気をつけて

 さて、音と光で騎兵は潰れた。

 先行していた身軽な馬を烏合に変えた。

 これは騎兵を潰すだけでなく、後ろからついて来た馬車部隊の足止めも兼ねている。

 後方連中にとっては精々が眩しくて五月蝿い程度のモノだっただろうが、前の騎兵が障壁になって程よく足止めされている。

 さぁて!これで逃走完了!





 そんな訳無いだろう?

 今、彼らは未だ逃げ切れていない。

 騎兵が目と耳をやられていても、その群を迂回すれば直ぐにまた轍の有る道に戻れる。

 この辺りに隠れられるような場所は無いから直ぐに同盟の馬車を発見に到り、追跡を再開。あっという間に追いつかれる。

 しかも、向こうは御者の頭数を揃えられている関係で、こちらよりも一台あたりの重量が少ない。

 要は、馬の負担が少なく、速い。

 と言う訳で、騎兵の壁は一分と時間稼ぎを出来ずに突破され、同盟連中は馬車に追われていた。

 「あんまり変わって無いんじゃないかなぁ⁉」

 「そうでも無いさ!身軽な騎兵が減った事で馬車側面を取られる事は無くなった!」

 「馬車は車輪が有るからよぉ、馬車が何度も走って車輪の溝…つまり轍を付けていない場所で走ろうとするとガタガタ揺れてまともに走れないんだよぉ。

 だから、後ろの馬車をスルーしてこっちに回り込まれるリスクは無くなったんだよぉ。」

 「つまり、今、後方の馬車が気にしなきゃいけないのは後ろの連中だけ。こいつ等を如何にかすれば一先ず撒けるって事でさぁ。」

 シェリー嬢の知り合いの三人組が活きピッタリに話し出す。

 「何か…あの娘を信じてるんだなぁ…アンタら。

 自分からこんな厄介事に首突っ込んで、あの娘の言う大胆な事を疑いもせずに信じるなんて……なぁ。」

 「そりゃぁ、」「実績がよぉ…」「有りまさぁ!」



 後方馬車にて



 馬車の車輪音がどんどん近付いてくる。

 もうそろそろ飛び道具の攻撃が始まって来る筈だ。

 「レン、二投目用意。」

 「もう終わってるっす!合図あれば直ぐにやれます!」

 レンが大きめのズタ袋を手にして、荷台後方を睨みながら投げる構えを取っていた。

 「ある程度引き付けろ。一網打尽にするぞ。」

 そう言いつつウィリアムの引き金に指を掛ける。

 ガタゴトと音が近付いてくる。

 暗闇の中、ボンヤリと馬車のシルエットと月明かりに照らされた鎧が見えた。


 「やれ!」

 「そいやっ!」

 レンが空高くに袋を放り投げる。

 後方連中より少し前方の上空にそれは投げ飛ばされる。

 「よくやった。最高の場所だ。」

 引き金を引く。


 パン


 爆音と共に水蒸気を吐き出したウィリアムが、金属の杭を撃ち出し、袋を見事撃ち抜いた。

 粉末が馬車に降り掛かる。

 「よし、スピード少し上げてくれ。多少の揺れは構わん。」

 その言葉を合図に馬車が速度を上げていく。




 馬車にて。

 「何だこれは?」

 爆音の後、謎の粉末を振りかけられた馬車の人間は首を傾げていた。

 こちらからは前方は殆ど見えていない。

 辛うじてガタゴトという音が聞こえ、こちらと同じ道を走っている事は解る。

 が、何をしたかまでは解らない。

 「何をしてやがる!?御者以外はさっさと矢を射ろ!

 適当に撃ちゃぁ当たる!さっさと殺れ!」

 もの凄い形相のドレッド様が怒鳴り散らす。

 正直、乗り気では無いが、自分が死ぬよりはマシだ。

 「悪く思わないでくれよ。」

 呟きながらボーガンを手にする。

 真っ暗闇の中、狙いは定まらないが、適当に撃てば…………


 バン!


 ボーガンが爆音を立てたかと思うと、爆発した。

 「え?な?」

 「何してやがる!他の奴もサッサと撃て!」

 その脅しに一瞬硬直して他の馬車の連中もボーガンを構えるも……


 バンバンバンバン!


 そのことごとくが爆発音共に爆発した。

 「んだよコイツはよぉォおおおおおおおお!」

 ドレッド様が怒鳴ると同時に。


 ドォン!


 爆発音と共に馬車が大きく揺れ、体が馬車の外へと投げ出された。

 「クソがぁぁあアアアアアアアアア!!!!!」

 獰猛な獣の絶叫が響き渡った。



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