ヒロインが毒されていく


 死人は脅威として認知されない。

 『死人テスト』というモノがある。

 行動や動作の定義をする際、『死人が出来れば行動では無い。死人が出来なければ行動。』という考え方をする事でそれが行動か否かを判別する訳だ。

 故に、『死人が自身の脅威になる』なんて考えはしない。何せ死人はそんな風に動かない。死人は動作や行動をするとは考えないのだから。

 一度死んだと思わせておけば警戒する事は無い。後ろから首を締め落とされる…なんて思う事は無い。

 だからこそ、抵抗させる事無く、三頭身をアッサリと締め落とせた。

 下手に正面からやり合えばどんな事故が起きるか、犠牲が生まれるか解らない。

 だからシェリー君は撃たれた。

 『自分の撃った弾で相手を撃ち抜いた。』これ以上確実に信じられる死人は居ないだろう。

 より確実に油断する訳だ。中々良い方法だと思わないかね?






 「確実に油断するからって、撃たれて平気って訳じゃないだろうにー⁉」

 傍から見ればド正論が飛んでくる。

 まー、防弾加工のドレスでも着ていたら話は別だろうが、そんな派手な加工はした事が無い。

 どうして無事だったか?

 教えてしんぜよう!

 まぁ、既に教えていたのだがね。

 『使った魔法を効率良く、幅広く使える様に』と、私はシェリー君に教えただろう?


 シェリー君が庇う前に魔法で、強度と速度を上げただろう?

 もし、庇ってお仕舞。その後を考えなければ肉体強度を上げる意味は無い。


 『あぁ、あと二倍程度の強化を手元から離れた状態で5分以上継続して行える様になれば、更にこれを瞬時に、0.1秒で行えるようになれば、晴れて実用使用可能と言える。』


 私はそう言っただろう?

 あの言葉の意味がここで生きて来る。

 あの時、肉体強化でシェリー君がスピードを上げて弾丸軌道に入った。

 そこまでは解っている筈だ。

 で、強度強化を使った訳だ。

 が、ゴム球を木の実レベルにする程度なら、アレの貫通は必至だ。

 さぁ、更に強度を上げるなら如何するか?


 答えは簡単。

 効果を与える面積と効果維持の時間を小さくすれば良い。

 エネルギーが関わる以上、それは何処へ行っても同じだ。

 この場合、弾が当たる部分のみ、着弾部分のみ最小面積で強度を上げる。そして、弾が当たる瞬間、インパクトのタイミングのみ、最大出力で強度を上げる。

 そうすれば一撃を喰らっても死なずに済む。

 弾丸の軌道ピンポイントを硬化させるには如何すれば良いか?

 シェリー君が私の教え子だと忘れていないかね?

 たかが100m未満、室内、素人の弾丸の軌道をミリ単位で予測してしまう程度、なんて事は無い。

 それが殺傷目的で無い弾丸であれば尚の事だ。

 「そうですよね?我々を生け捕りにしようとした、親切な狙撃手さん?」

 地面に転がっている男にそう言った。

 「お前さん……何なんだ?」

 地面にくずおれた狙撃手が顔だけこちらに向けた。




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