物語を転がす頃合いだ。
「さて、では、
帰るとするかね。」
こんな薄暗く、息苦しい牢獄の中にシェリー君を居させるのは忍びないし、私としても、牢獄という『世界一似合わないと確信出来る場所』に居るのは甚だ憤りさえ覚える。
私が牢獄?何の冗談かね?
純度100%の善意と遵法精神の持ち主がそんな所に居るべきでは無いとも!
「地下なので解り辛いですけど、この分だともう外は日没後ですよね?」
「あぁ、日没後2時間22分12秒経過。
辺りは日が暮れて真っ暗闇。
松明やランプが幾ら有っても、数で如何にかしようとしてもカバーしきれない闇は出来る頃合いだ。」
そして、その中途半端な明かりが人の視覚を鈍らせ、闇に紛れる者を覆い隠す。
中途半端な光は闇をより濃くし、自分の場所を闇の中に居る者達に照らして知らしめる行為。まぁ、狙い放題で狙われ放題な訳だ。
あの連中を逃がすならこの時間帯はうってつけだろう。
さて、始末し終えたらどんな方法で逃がそうかね?
「さて、では、こちらの始末もつけねばならないね。」
「何を言って?」
私の言葉が引き金にでもなったように見える程のパーフェクトタイミングで4人の男達が階段を降りてきた。
しかも、何故か蒼い顔をしながら後ろ向きに。
「あー、悪いな。
ちょっと待っとけ。ちょっと始末したらちゃんと保護するから。」
4人に引き続いて階段を降りてきたのは、気怠そうな口調の男。
ダークブラウンの髪、眠そうに見える眼、そして何より目を引くのは、手に持った奇妙な形の筒。
男はその筒の先端を4人の足元に向けている。
4人は怯え切った顔でそれを注視している事、この場所に足を踏み入れている事、明らかに男が戦い慣れしている体運びである事、そして何より、筒の大きさと形状から用途を考えれば、彼が我々を狙っていた狙撃手だという事は直ぐに解る。
「人質のお嬢さん!大丈夫っすかぁ?」
階段を降り切った狙撃手の後ろから金髪の若者がひょっこり飛び出して来る。そして、その視線の先にはシェリー君。
こちらは、この緊迫している筈の状況で不自然なまでに陽気で能天気である。
それは、人質へ心配をさせない配慮…という訳では無く、元々この男はこういった性質であるというのが正しい。
この手の輩は考える能力はあるものの、それでも敢えて論理的最適解よりも個人的感情の最適解を選ぶ場合がある。
「さぁて、面倒だが敢えて言おうか?『大人しく武器を捨てて降伏すれば少なくとも俺達二人は、殺しはしない。投降しろ。』」
気怠い目が光った。
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