威風堂々

 手には筒状の猟銃には似ても似つかないシロモノ。ただ、照準器が確認出来、武器の構えが猟銃のソレと酷似している事から飛び道具である事はまず間違いない。

 更に言えば、先程まで撃ち込まれていた弾丸の大きさと筒の大きさは見事に一致する。

 我々を上で狙撃していた連中がわざわざここまで追いかけてきた。という事だ。




 あの武器の形状からして、飛び道具以外に単純な鈍器としての使用も前提で作られている。

 自分から姿を現した事、飛び道具だけでなく鈍器として…つまり近接戦闘を前提あとして武器を用いる辺り、殺し屋では無く傭兵と言ったところだ。

 しかも、明らかに対人殺傷には大仰過ぎる得物を扱う様な………だ。

 戦況分析をすると、この場で、真っ当に5人掛かりで襲い掛かった場合、5人まとめて串刺しにされる。

 先程の連射性能を見れば、この状況下で数に頼るのは愚作と言えよう。

 更に言えば、相手は階段を背にしている。下手にそちらに逃げ込まれたら、横道の無い階段で、シェリー君達にはアレを回避する方法が無い。

 全く、厭らしい戦い方というか、まぁまぁ的確に地の利を活かしているというか、敵方とするのは中々適当な難易度だ。

 まぁ、こちらは人質。手荒な真似はされない。適当に隙を見せた所で背後から強襲…………………



 ガチャリ!



 保護しに来た若い方の男が、シェリー君の後ろに回り込むと同時に、素早くシェリー君の手首に手錠を噛みつかせた。

 「…………?」

 ワザとらしくキョトンとするシェリー君。

 まー……………バレるよな。それは。

 「レぇン。気を付けろ。少なくとも正面からお前が殺り合えば負ける相手だからな。」

 ガチャリ

 銃の装置の一つを動かし、銃口をこちらの足元に向けつつそう言った。

 「嬢ちゃん……アンタだろ?俺らを出し抜いて、こーんな厄介な所へ誘い込んだのは…………。」

 さてさてさて……………単にこの二人を始末するだけならなんて事は無い。


 『四人を盾にしつつ手錠を外し、二人組の首を絞めて始末する。』


 これで御仕舞。実行可能かと問われれば無論可能だ。

 後は死体を組み合わせて『傭兵VS立て籠もり犯』の戦いの結果、相討ちになったという形を取れば良い。

 それだけならなんて事は無い。

 が、

 「お二方、待って下さい。

 少し、話したい事が有ります。」

 後ろ手に手錠をされたまま、堂々と、銃と立て籠もり犯‘sの間に割って入ったシェリー君。


 手錠抜けのノウハウは教えた。

 丸腰で飛び道具相手に立ち回る方法も教えた。

 殺しや戦闘のプロを紙屑の様に潰すにはどうすれば良いかも教えた。


 が、今、シェリー君が行っている動作は、そのどれにも当てはまらない。

 「もし、私の言う事が戯言だと思うのであれば、どうぞ、その手に持った物で私を殺すと良いでしょう。」

 無抵抗、無対策、無力な少女が凶器の前で堂々と言ってのけた。




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