鍵5つ

 「さぁて!楽しい楽しい謎解きの時間!


 |謎解き大好きor普通or大嫌いな諸君!無垢orそうでない少年少女~老年老女諸君!準備は良いかね?」


 「あの、教授?今は正直ふざけている場合では無いと思うのですが……。


 手短に願えますか?そもそも、その口上は必要ですか?」


 Oh、シェリー君が私に対して辛辣!これ以上堪える凶器も攻撃も今の私には無い。


 「真面目だとも、この程度なら、如何と言う事はあるまい?」


 「現段階では何とも……『宝が有る』というのも未だ実感が有るとは言い難いですし、それを見つけ出して手に入れる事が出来るかどうかも未だ解りません。」


 シェリー君の表情が若干曇る。


 確かに、確定していない要素を過剰に大きく、または小さく見積もって評価する事は愚かしい。


 不確定な、未知の変数を蔑ろにした結果人類は幾度となく凄惨な目に遭って来たのは歴史が証明している。何度もやっている事を見ていると、私としては頭を抱えるばかりではあるがね。


 「だがシェリー君、未知の変数は恐るべきだが既知の確定した変数を過剰に恐れる事もあまり賢いとは言い難いのだよ。」


 「……どういう事ですか?今私が知り得ている情報に何か見落としが?それとも、観察が不足していたでしょうか?」


 首を傾げつつ自身の至らなかった点を探そうという精神は見上げたものだ。


 まぁ、こ・れ・は初歩的ではある、しかして同時に、一般的とは言い難い理論だから健全な少年少女は本来思いつく様な内容で無いのは認めよう。


 ただ、これからそう言った自身が思いつかないであろう所迄分析し、観察し、見通す事が出来ねば淘汰される事も有る。


 近々、自分には無い思考に至れる様になって貰おう。それはそれとして…………


 「今、君の手には何が有る?」


 「………………?」


 「哲学や作麼生説破そもさんせっぱをしている訳では無い。単純なクエスチョンだ。普通に答えれば良い。」


 私の言葉の裏に何かを見出そうとしたシェリー君が首を傾げたのを見て、訂正する。遠回し過ぎる言い方も考え物か。


 「それは、『鍵』と言う事で素直に考えて良いのですか?」


 それを聞いて思案しながら恐る恐るといった具合に答える。


 疑心暗鬼を植え付けすぎるのも問題………と言う事かね。


 「正解だ。鍵。5つの鍵が有る。鍵が有るという事は…」


 「鍵を掛ける必要が有る物、大事な物が有るという事ですか?」


 「それは先ず正解。ただ、問題は、重要なのはそこでは無い。」


 「……と言いますと、『鍵が有る』と言う事はそれだけ障壁が困難・難解という事ですか?」


 「残念、『鍵が有る』という事は開・け・る・手・段・が・有・る・という事だ。」


 鍵は錠前とワンセット。それ即ち、鍵が有れば開ける錠が存在するという事。


 「絶対にそれは開けられるのさ。どんな技巧を施そうとも、どんな仕掛けが有ろうとも、それには開ける方法が存在するという事だ。」


 難解な問題。


 それは解答に至るのが困難な問題の事では無い。


 難解な問題は解答が存在しない問題の事だ。


 まぁ、『解答が存在しなければ創り出す』という事も十二分に可能だがね。


 「鍵が有ろうとも無かろうとも、それは同じ事。開ける手段が世界に存在するならば、そこに至る事は造作も無い。


 もし、盗んで欲しく無ければセメントで固めて深海に放り込めば良い。」


 そんな事すれば、仕舞った人間も二度と回収は出来ないがね。


 「さぁ、サクッと片付けてしまおう。」


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