盛り沢山、更にその上に

 さぁて、では、当初の頃と比べて明らかに捻れ、歪み、原形を留めなくなった現状の整理を始めようか。

 先ず、今日はアールブルー学園の後期始業式。

 三姉妹令嬢の火の不始末で『何故か』異常に燃え、全焼してしまった宿舎と、半分焦げた校舎が新築された御披露目当日。

 授業中に最新設備の警備をすり抜けた5人の立て籠り犯にこの学園は一クラスだけジャックされた。

 ジャックされたのはシェリー君のクラス。

 何かを探す立て籠り犯に対し、貴族令嬢の連中はシェリー君を生け贄の哀れな子羊にする事で助かろうとした。

 要は、シェリー君は売られた。人身御供とも言える。

 そんな訳でシェリー君を人質に、借金で首の回らなくなった立て籠り犯連中は、この学園に何故か有るとされている宝を得るために探索を始めた。

そうして道中、ヘッドショット頭に命中で人の頭が無くなる様な、明らかに対人用では無い飛び道具から放たれた凶弾に、立て籠り犯が狙われ、それをシェリー君は庇った。

 そんな物騒なモノの威力を少女の目の前で御覧に入れようとする輩を華麗に躱し、立て籠り犯の元締めと化したシェリー君は学長室へと向かう。

 家捜しするも、有るのは盾やトロフィーや新校舎・宿舎の詳細や寄付金の感謝状、意味の無い蘊蓄うんちく本ばかり。

 しかし、本棚を探すと一冊だけ本に偽装した仕掛けが有った。

 仕掛けを作動させ、その先に在った石階段を下ると、物言わぬ石人形の手厚い歓迎。

 幾種類かの石人形を破砕処分し、壊した後で出てくる意味深な鍵を集め、最後の一種類を片付けようとしたところ、不要な気遣いをした立て籠り犯連中が抜け駆け。処理に失敗して、1人は大怪我をしてしまった。

 これを『何故か』止血の心得があった、『ただの』善良な少女シェリー君は治療し、現在に至る。


 ハッハッハ。盛り沢山じゃないか!!

 ただ、残念と言うべきか、面白いと言うべきか、コレで物語は終わり……………では全く無い。

 「で、シェリー君?君はこの後どうする気かね?

 今の状況は、外部から見れば『5人の立て籠もり犯と人質(ただし生命の無事を保証しなくても良い)が学園内に居る状態』だと言える。

 勝利条件がもし、『立て籠もり犯から逃れた幸運な少女を装う』事ならば瀕死の人間5人くらいは私がやらずとも出来るだろう?」

 解りきった事だが、敢えて意地悪く訊いてみる。

 「教授?それではこちらの皆さんは確実に無事では済みませんし、こんな大掛かりな物を見てしまった時点で私にも選択肢は無いと思うのですが?」

 アハハハハハハハ……………シェリー君の視線が凄まじく痛い!

 想像したまえ。可憐な少女から刺される様な視線を向けられるという事を。まぁ、場合によっては吐血レベルかね?

 「では、如何するかね?ここに居る5人を始末した後に雲隠れする事も可能だが……君の考えはそうではあるまい?」

 茶番も良い所だが、典型的な悪党の台詞で挑発する。

 「そうですね………『私を含む6人が無事この窮地から逃れる。』と言うのが望みですね。

 その為には、皆さんの押し付けられた借金を返済又は証文の破棄も含みますので、ここに有るとされているお宝を頂きましょう。」

 「宝?あれはガセネタという奴では無いのかね?」

 「これだけの規模の物を学園の地下に用意して、挙句に隠しているのですから、何もない……と言う事は無いでしょうね。

 この規模でしたら、隠されている物には少なくとも、交渉材料としての価値が十分に有るでしょう。」

 そう言ってシェリー君は懐から4つの鍵を取り出した。

 今しがた入手した鍵と合わせて計5つ。それがシェリー君の手の中で鈍く輝いていた。

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