勝負の行方

「なんとか なりましたね。」 肩で息をしながらシェリー君が床に座り込む。

「あぁぁぁー!心臓に悪かったナァ!!」

「この悪趣味な扉、本当に大丈夫なのかのー?」

「ぬぅ………この扉、魔法で強化されている。」

「取り敢えず、一安心みたいだニー。」

「ねぇ、これって、結局は廊下から部屋に籠城場所を変えただけじゃない?

結局逃げ道無くない?」


現在地、学長室。

全速力で階段を駆け上がり、ここまでやって来た。

何をしたか?

シェリー君は最初に、所持品の縄をバラバラにして紐を作った。 次にこれを油にたっぷり浸し、簡易的な導火線を作り上げた。

これを、廊下を横断する様に伸ばし、廊下の端、階段の前で導火線の先端部分を蛇行させつつ閃光弾をくくりつけた。

後は、自分達は閃光弾と逆方向の階段に陣取り、目の前で煙幕に火を着けた。

ある程度煙が充満したところで導火線に火を着けた。

油を燃やしつつ、火が廊下を走り、閃光弾に火が着く寸前、炎上する紐を鞭のように振るった。

火が着いているとは言っても、厳密には紐を濡らす油が燃えているだけで辛うじて強度がある。

手元で発生した運動は紐を伝って閃光弾へ。

蛇行部分が伸びて狙撃手から閃光弾が見えるようになり…


カッ!


目が眩む様な光が放たれる。

その瞬間を狙って薄く煙が充満した、閃光弾とは逆方向の階段を駆け上がり、学長の部屋へと滑り込み、今に至る。






狙っていた相手は考え無しに行動してはいなかった。

こちらを警戒していた。

闇雲に撃たなかったのが良い証拠だ。

そんな中で、こちらがワザワザ換気が良くなった空間で煙幕を使えば、相手は深読みする。

効果の薄い煙幕を囮に、私達が反対方向に逃げるに違いない。と踏んだ。

そうして目を凝らしたところで閃光を諸に喰らい、その隙に堂々と私達は煙の中を走り抜け、幸いにも鍵の開いていた学園一頑丈な学長の部屋へと滑り込んだ訳だ。

相手には、校舎ごと打ち抜いて人質ごと始末しようとしなかった甘さが有ったものの、シェリー君は撃たれるかも知れないという死の危険と恐怖の中、よくやった。





「皆さんに訊きたい事があります。」

シェリー君が息を整え、立ち上がりながら口を開いた。

「ナァ?」「にー?」「ヌゥ…?」「ねぇ?」「のー?」

全員が此方を向く。

「先程訊こうとしてうやむやなままだったのですが、一体皆さんは何をしにワザワザここまでいらっしゃったのでしょうか?」

この面倒事の裏には何かがあるとシェリー君は薄々感付いていた。


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