さっき迄煙幕を使わなかった理由。それは使わなかったのではなく使えなかったから。

 煙幕には数的制限があり、校舎両側の階段を煙で満たす事は出来ない。

 階段を片方だけ見えなくする。しかし、それでも完璧ではない。

 煙幕は『邪魔になる』とは言ったが、正確で無くても構わないなら当てる位なら出来る。

 相手は玄人、そこらへんも承知の筈。

 ならば考える事は、煙幕を囮に逆の階段から逃げる事。

 しかし、この方法は狙撃手が複数居て、全方位に照準が定まっている場合において

使えばあっという間に蜂の巣にされる。

 幾ら一人の気をそちらに向けても、他の連中が捉えれば即アウト。

 そう、俺が窓ガラスを脅しで割った時、奴等の頭脳アタマ担当にはバレたらしい。

 ここには確実に狙撃手が一人しか居ない。という事が。

 一人なら、煙幕で視線を誘導すれば逆サイドの階段まで全速力で走って逃げおおせられる。

 つまり、

 「煙はフェイク。本命は逆方向の階段だ!」

 照準を逆方向へと向ける。

 「ちょ、ジャリスさん!そっちは逆方向じゃぁ………」

 「良いから、黙って見てろ!」

 意識を煙の無い階段の方へ向ける。

 窓の端で何かが揺れた。

 「何か居ます!」

 レンも目端で捉えたらしい。

 恐るべきは敵将。

 剃刀なんて異名を付けられてたが、俺もまだまだ甘かったらしい。

 せめてそれを気付かせてくれた礼だ。一発で仕留める。

 外しはしない。狙いは頭。

 確実に頭を一瞬で吹っ飛ばす。苦痛は感じさせない。

 廊下に何かが出て来た。

 引き金に指を掛けた。







 カッ!

 視界が真っ白に塗りつぶされた。

 眼球が光に焼かれて痛い!

 「ガァァァァアアア!」

 「ワッ!」

 凝視していた俺達は見事に光を喰らった。

 しかし、こちらも同時に引き金も引いた。


 パン!

 バキィ


 しまった!衝撃で撃っちまった!

 光で怯んでいても、こちとらプロ。

 銃口は一ミリもずらしちゃいない!要は下手に走り込んで来た奴が居たら確実にソイツを撃ち抜いている。

 嬢ちゃんは!嬢ちゃんは⁉

 真っ白な世界で少女を探す。



 しかし、その世界には少女は存在しなかった。

 閃光の目眩ましから回復した2人の目に映った光景は、床を抉り砕いた弾痕が一つ有るのみの校舎の一角。

 「レン、あいつ等は何処に行ったか解るか!?」

 目をぱちくりしながらレンが目を凝らす。

 「ダメっス。完全に見失いました。

 他の階も探しましたけど、見る限り、どうも見える範囲には居ません。」

 項垂れながら悔しそうに答えた。

 煙と逆方向に逃げる直前に閃光で目眩ましした?

 なら、タイミング的に俺が撃った弾が誰かに当たっていても良い筈だ。

 何だ?俺は何をされた?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る