連行


 「この教室は…如何かナァ?」

先陣を切る長身痩身が後ろの2人に目の前の教室をしゃくって探すように示す。

それに応えた小柄な肥満男と中肉中背の二人が教室のドアを開けて中を探す。

粗方探し終えて出て来た二人の顔は晴れやかとは言い難かった。

 「んー………無いのー………。」

 「ヌゥ…………机と椅子、しかない。」

 如何やら目当ての物はなかったらしい。

 「ハァ………次、行こうかナァ………。」

 長身痩身は手に持った縄を引っ張ると先に進もうとした。

 「あの…………少し、宜しいですか?」

 長身痩身の男の持っている縄に繋がれたまま、シェリー君は黙って居られずに手を挙げた。

 「何かナァ?」

 面倒そうに長身痩身がめ付ける。が、残念ながらその程度で臆するほどシェリー君の肝は小さくは無い。何せ、立て籠もり犯が子猫程度に可愛く見える大悪党に師事している。

視線を意に介さないとでも言う様に、言葉を続けた。

 「皆さんは何かを探している様に見えましたが………この学園で、一体何を探しているのでしょうか?

 落とし物……という事は有りませんよね?この学園はつい最近、建て直されたばかりなのですから。」

 シェリー君は更に続ける。

 「ここが、貴族令嬢が多数在籍している学園であるとは言え、価値有るものは本来有りません。一応、学校ですから。

 では、貴方たちの目的は何ですか?」

 シェリー君はその点を先程から気にしていた。

 確かに、貴族令嬢ひしめく学園で立て籠もりを成功させ、人質を取れれば人質の価値は約束されているも同然である。

 しかし、この男達は貴族令嬢の身代金目的で行動をしていない。

 かと言って、これ見よがしに有る職員棟でなく、教室をさっきから念入りに探し回っている辺り、学園の売り上げを狙っている訳でも無い。

 何かを探す際、あれこれ邪魔が入らない様に。という事で抑止力として人質を取っている。

 『では、その探しているものは何か?』と、シェリー君は考えていた。

 人質を取って身代金を取った方が確実に儲けられた筈。しかし、それをしなかった。

 『親たる貴族達の報復を恐れた?』残念ながら既に人質を取った時点で報復は起こり得る。

 今更恐れる理由には成らない。

 つまり。

 「この学園に、『身代金以上の価値を持っている何かが隠されている。』貴方達はそう考えているのでは無いでしょうか?

 だから、最初から身代金を要求するような素振りを見せず、たった一つの教室分だけの教室を占拠し、学園内を探し回っていたのではないでしょうか?」

 その発言で明らかに男達の表情が変わった。

 窓からの陽光で各々が持つ武器がギラリと光った。





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