人身御供


こうなる事は解っていた。

 この中で一人、他の連中とは違って遺恨を無く、後々の厄介事が起こりえない、うってつけの人質候補足り得る人間が居る。

 他の貴族令嬢ならば、万が一何かが有った場合、親の貴族からの反発や報復といった厄介事が起きかねない。

 生き残ったら生き残ったで、後々令嬢の方が他の連中に恨みを抱いて親の貴族に有る事無い事を言いかねない。

 人身御供にすれば、面倒この上ない事が後々絶対に起こる。

 しかし、たった一人、シェリー=モリアーティーだけは例外であった。

 親は有名貴族では無く、死んでも生き残っても文句を言えない。言っても意味が無い。

 更に、身分が低い癖に成績だけは良い、いわば目の上のタンコブ。

 これを機会に自然に始末出来るかもしれない訳である。



 自分達は助かり、邪魔者を始末出来るかも知れない、いわば一石二鳥だった。



 「そうですわ。シェリーさんでしたら!」

 そう言って悪趣味な造り笑いを貼り付けた、ブロンドの短髪の女が立ち上がった。

 「この中で最も身分が高く、成績も上位。冷静ですもの、きっとやってくれますわ。」

 続いて長い髪を一つに纏めた小柄な女が立ち上がった。

 「ミス=モリアーティー。貴女なら大丈夫。やって…くれますよね?」

 それに続いて口を出す馬面の女。

 更にそれに引き続いて他の女達もシェリー=モリアーティーコールを始めた。

 虚構の美辞麗句を並べ立て、シェリー君を称賛するようにして立て籠もり犯達の人身御供へと差し出す……否、『突き出す』が相応しいか。

 ここぞとばかりにシェリー君の価値を上げようとしている。

 いつもなら蔑み貶める筈のシェリー君を持ち上げ、高貴な貴族で冷静沈着で自己犠牲の精神・・・・・・・持ちに仕立て上げられている。

 周囲の視線はシェリー君に向かい、期待と脅す様な視線を向けていた。

 丁度良い犠牲者を見つけたと言わんばかりだ。

 嗚呼、自己犠牲……………ね。

 私はそう言ったものが大嫌いだとも。

 人間の本質は自己の欲を満たす事にある。そして、人間はその為に他人を陥れる。これは最早人間の本質として諦めよう。

 が、しかし、その醜い欲の為に自分を犠牲にしようとする、人間の欲の糧に自らなろうというのは本質として外れている。

 自分の為に何故生きない?

 自分の為に何故他人を陥れない?

 自分を陥れようとする人間の為に何故自分を殺す?

 私とは相容れない。

 シェリー君かね?

 確かにシェリー君は自己犠牲の精神を持っているとも。

 村人の為に危うく死にかけていたのが良い例えだ。

 私は何度も思っている。今正に思っている。学園の全てを潰してしまい、彼女を自由にしたいと何度思った事か?

 が、シェリー君がそれを許さない。『自分の為に人を踏み躙って生きていくのは嫌だ。』そうだ。

故に私はそれを尊重している。

が、解ってはいるものの、ここで証人諸共消してしまおうか?

「教授、良い機会です。利用させて貰いましょう。」

 ハァ、負けたよ。

 「解った。では、良い様にされてあげよう。」


 シェリー君は立ち上がって立て籠もり犯へと向かっていった。

 「皆さん、参りましょう。」

 シェリー君は堂々と立て籠もり犯の人質となっていった。

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