始まり

サッサッサッサッサッサッサッサッサッサッサッサッ

 草原を歩く音が聞こえる。

 長身で痩身、筋肉質な男、中肉中背、不健康そうな猫背、小柄な肥満。

 5人が縦にならんで草原を突っ切る様にして歩いている。

そうして、シェリー=モリアーティーとジェームズ=モリアーティーが魔法の練習をしている正にその時、学校の前に5人の男が立ち並んだ。

 この辺りにはこの学園の他には目ぼしいものは何も無い。

 観光するならここには来ない。買い物をするならここには来ない。商いをするならここには来ない。盗人稼業ならここには来ない。帰路に就くならここには来ない。住んでいる人間は居ない。

 この近辺には学園以外に何も無いし、通り道にするにしてもここは主だった街道の迂回路としてしか存在していない、寂れた場所。目ぼしいものは学園だけ。

 しかも、目ぼしいもののその学園も度重なる事件事故の所為で警備が強化されて問答無用で外部の人間は入れない。

無断で入ろうとしても、改修工事の所為で入る事・出る事がそれぞれ極端に難しくなっている。

 柵を行き来するのはもっての外。

この辺りにわざわざ複数人で来る必要など、意味など無い。



だというのに、男達は柵の前でじっと立っていた。





 「中々汎用性が高いですね。」

 シェリー君がゴム球を強化しながらそう言った。

 そのゴム球は、今や石というよりも鋼鉄じみた強度を帯びて来た

 「あぁ、あと二倍程度の強化を手元から離れた状態で5分以上継続して行える様になれば、更にこれを瞬時に、0.1秒で行えるようになれば、晴れて実用使用可能と言える。」

 「この二倍の状態を遠隔で、5分続けて、更に瞬時ですか⁉」

 「そうだとも。

 先ず、強度の点だ。

鋼鉄の強度が有れば、剣を受け止める事が出来る、どころか叩き折る事も出来る。が、実際、鋼鉄の何倍もの強度の武器や速度を加えた物相手では分が悪い。

 取り敢えず・・・・・二倍は欲しい。

 因みに、『手を離した状態で出来る様に』というのは、自分以外の物に対して行使出来なければ使用用途に制限が掛けられるからだ。

 出来ないよりは出来た方が良い。

 次に、『5分』という数字。これは夏休み体感しただろうが、一体多数の状況では常に致命傷が迫って来る。

 少なくとも5分、逃げるにしろ戦うにしろ、それだけの時間この状態で居られれば生存率が高まる。

 最後に、0.1秒。これは不意打ちへの対策だ。

 たとえ強度を上げられても、『常に』で無ければ不意打ちのリスクが常に忍び寄る。

 不意打ちを予測出来るようにしても、不在の証明という限界はある。『0』には出来ない。

 ならば、不意打ちをされても後手で対応出来る瞬発性は必要になる。」

 「………実用への道は厳しいですね。」

 シェリー君が嘆いていると、教室の外から足音が聞こえた。

 「シェリー君?」

 「………おかしい……ですね。」

 気付いていた。

 別に、教室の外から足音が聞こえてくる事自体はおかしくない。教師が歩く事もあろう。

 が、その足音が5つ、並んでやってきたらそれはおかしい。客人?応接室はこの先に無い。

 足音の主は、長身で痩身、筋肉質、中肉中背、猫背、小柄な肥満。教師陣にこのパターンの足音の主は居ない。

 止めに、この5人は忍び足で歩いていた・・・・・・・・・


バン!

扉が乱暴に開かれた。


さぁ、面白い事が始まりそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る