天変地異の始まりと蜘蛛の巣

(………成程、では、私達は幻覚魔法によって幻覚を見せられ、ランプの光を見せられて走らされた…………と。)

(はい。ランプの光が複数存在する理由を考えた時、その考えがふと思い浮かびました。)

(忘れもしません。姉様が毒を盛られ、私達がアイツに恥をかかされた時の授業の内容でした!)

(なる程、では、この階数板も、もしかしたら嘘である可能性が有ると………。)

(はい。)

(確かに、その話には筋が通っています。しかし、私達は本当の階数を知る事が出来なければダメなのでは有りませんか?

どうやったらその幻覚魔法を打ち破る事が出来るのです?)

(えぇ…………と………確か。)(幻覚の有効範囲外まで逃げる他に、…………そうでした!体内魔力をわざと乱すことで幻覚魔法の干渉を弾き飛ばす方法が有りました!)

(成程、では、試しにそれをやる価値は有りますわね。)

(((では。)))

そう言って各々自身の体内に有る魔力の流れを意図的に乱し始めた。

体の中を循環する一つの流れをわざと見出し、幾つもの渦を巻く様に、大きな流れに逆の力をぶつけ…………

(なんだか、気持ちが悪くなってきました。)(私もです。)(なんだか……目の前の景色がグニャグニャしてきましたわ。)

体内の自然な流れを乱すのだから当然不快感は覚悟していました。

しかし、これは、この視界の歪みは流れが乱れた事によって起こる様なものでは有りません。

(これは……)(景色が)(変ってゆく。)

体内魔力を乱す事を辞めた途端。歪みが無くなり、先程までより視界がはっきりとした気がしたのです。

そして、それは決して気のせいでは有りませんでした。


(姉様、文字が。)

(あれは!)

(そう…………………もう既に、私達は目的の場所に辿り着いていたのね。)


私達三人は見上げて壁に掛かった階数の文字を改めて見てみました。

そこには間違いなく、『9』の文字が躍っていたのです。

(辿り着きました!)(小賢しい真似をしたのはアイツね。)(目にものを見せて上げなくてはなりませんね。)

私達は互いの居場所を再確認し、廊下や階段の上や下の方からやって来る明かりが無いかを確認し、真っ暗な世界が広がっていることを確認してゆっくりと、廊下を歩き始めた。






(ここね?)

(えぇ、間違いありません。)

(しっかり明るい内に部屋の場所は確認して有ります。)

私達はとある部屋の前に辿り着いた。

真っ直ぐで代わり映えしない廊下に、全て同じような扉。

しかし、この扉の先の部屋の主には因縁がある。

私達三人を虚仮にし、貴族へと反旗を翻した愚か者。

断罪の時は来ました。


(姉様、一体何をしているのですか?)

私がランプの中から油の入った容器を取り出し、それを扉の前に撒き始めたのを見てミリネリアが訊ねて来た。

(見ての通り、油を撒いているのですよ。

セントレア、撒き終えたら火の魔法をここに放ちます。準備を。)

(姉様、流石にそれは不味いのでは?)

(コイツはまだしも、他の貴族令嬢連中を敵に回すのは流石に…………)

妹達が火事の巻き添えを喰らった他の貴族の怒り顔を想像して蒼くなっていた。

(心配しないで。この程度の油ならボヤで済みます。

そして、直ぐにここを離れれば火事の原因は私達でなく、しっかりアイツの不始末にする事が出来ます。

計画は完全無欠。という訳です。)

それを聞いた妹達が顔を綻ばせた。

(流石姉様。)

(素晴らしい考えですわね。)

そんなこんなをしている内に、油を撒き終えた。

(セントレア。お願いします。)

十分な距離を取り、セントレアが油溜まり目掛けて


『着火』


火を放った。








次の瞬間、視界全体に蜘蛛の巣が走った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る