天変地異は忍び寄る

その夜。


「すっかり準備完了だ。」

「随分、ガランとしてしまいましたね。」

シェリー君の部屋に合った荷物の大半は日中に職員棟に運び入れた事で無くなり、ベッドと教科書が一冊有るだけになった。

「授業はもう終わった………良いんだね?」

「はい。後は明日、ここを引き払って職員棟に移るだけです。

夏休み!勉強の夏!教授!宜しくお願い致します!」

シェリー君はやる気満々。果てしなく勉強し続ける勢いがもう既にある。

「無論だ。しっかり学んで貰おう。」

ただ、『職員棟で勉強する』とは限らないがね。

「ただ、勉強の前に、仕上げをしなければならない。」

「…………仕上げ。ですか?」

「あぁ、夏休みを後々憂いが無い様に過ごす為の仕上げだとも。」

このまま夏休みへ何の心配も無く移れる訳が無い。

あの三人が謹慎処分になった事は聞いたが、それを素直に受け入れるあの三人では無い。

「シェリー君、少し、主導権を借りて良いかね?」

「はい…………ですが、一体何を?」

不安げにシェリー君が訊ねる。

「心配する事は無い。発想を少し転換するだけだ。

あぁ、あと少しだけ。シェリー君にやって貰いたいことが有るのだが………良いかね?」

「…………良いですけど、私は部屋を吹き飛ばす様な真似はしたくありませんし、それは教授と言えど許しませんよ?」

シェリー君は警戒心を露わにして、確固たる信念をぶつけて来る。

全く、一体私を何だと思っているのだか?

「部屋を吹き飛ばす様な傍迷惑な事はしないさ。安心したまえ。」

そう、私は決してそんな無粋な真似はしない。

『マッチ一本有れば城一つ消す事が出来るんだったら、宿舎ごと吹き飛ばす事なんて簡単に出来るんじゃ無いか?』だって?

お望みとあらば、宿舎も校舎もまとめて消し飛ばす事が出来るさ。人間諸共にね。

が、そんな事をやる気は無い。

安心したまえ。そんな物騒な事をする気は無い。

「えは、行くとしよう。」

音も無く扉を開け、音も無く真っ暗闇の宿舎へと私は消えていった。





「ハハハ、そんな………」

「フフ、フフフフフフフ。流石にそれは………」

「二人共、何を言っているのですか⁉

ここ迄我々を虚仮にした輩をそのままにしておくなど出来る訳が無いでしょう!

キッチリ、夏休み前にケジメはつけさせて頂きます。

さぁ、二人共、来なさい!

それとも………このままであなた達は許せますの⁉」

焚きつける長姉。

それに焚きつけられて二人の妹の目が変わった。

「ハハハ、そうでした。忘れる所でしたね。」

「フフ、フフフフフフフフ。そうよ、そうです、そうですわ!

私達は貴族!卑しい身分の輩に虚仮にされる等あってはならない事!

愚かしさには罰が必要ですわ!」

「さぁ、皆さん、高貴な者のすべき事を成しに行きましょう!」

「えぇ。」「はい。」

教授の予想通り、三人のレッドラインは、特に長姉のメーテルは怒り狂っていた。


ガチャン

扉の開く音が聞こえる。

ガチャン

扉の閉まる音が聞こえ、宿舎の廊下に明かりが一つ。浮かび上がった。




夜が始まった。

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