微風の如き
クスクスクスクスクスクスクスクスクス………。
三人の同じ風貌の少女はクスクス笑いながら校舎の一角。階段の横に隠れて待ち構えていた。
「ハハハ、泥水塗れになると良いわ。」
ハミネリア=レッドライン、娘(小)は今から起こる喜劇を想像して既に笑っていた。
隠れて見ている階段の一段目寸前。地面スレスレの所には糸が張ってあった。
その糸の一端は階段の壁際に糊で固定されていた。
もう片方は階段手すりの飾りや細い部分に引っ掻けるようにして張り巡らされて上に伸びていた。そうして糸は張り詰めた状態で階段を昇り、階段一段目の真上に仕掛けた泥水入りのバケツに繋がっていた。
端的に言えば基本的なブービートラップである。
彼女の考えはこうだ。
『この後の授業、シェリー=モリアーティーはこの階段を確実に通る。そしてアイツは確実にいの一番に教室に来る。
そうしてアイツは、私の仕掛けた巧妙な罠に気付く事無くノコノコここを通って糸を引っかけて転び、上から泥水を被る。
そう、これは私の知性と柔軟な想像力が生み出す芸術の如き策略。
完璧だわ。』
糸は透明で細く、地面ギリギリに張っている為、そこにある筈だと思って注目しなければ発見は出来ない。
実際回避は難しいものが有る。
タッ タッ タッ タッ タッ タッ タッ タッ タッ タッ タッ タッ
廊下の向こうから急ぎ足で歩く音が小さく聞こえる。
(ハハハ、来た。)
自身の悪趣味な企てに胸を躍らせながら三人は階段の陰に身を潜める。
(ハハハ、ゴミに相応しい無様に醜態を晒すと良いわ。)
笑いをこらえながら隠れて耳を澄ませる。
本当は目の前で見たいところだが、バレてはいけない。
今回は惨めな姿を嗤うだけで我慢してあげよう。
タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタ
階段の所へ来た。
タッタッタッタッタッタ タッタッタッタッタッタッタッタッタッ
音が途中で止んだ。
足を止めた?気付かれた?
そんな事は無い。糸は足元を注意深く見ていたとしても発見できる代物ではない。
バケツを片付けられて不発だった?まさか!この上の階は授業をやっていない筈。気付かれる訳が無い!
出ていくか否か考えを巡らせていると姉達がこちらを見て不満を露わにする。
仕方無い。どうせバレても如何にも出来ない。
意を決して階段へと歩を進めた。
居ない!
アイツが居ない!
何かを感じて廊下を戻った?まさか!
廊下側を見ても誰も居ない。
仕掛けが不発だった?避けた?そんな事有る訳が無い。
そもそも足音が途中で消えたのは何故?
兎に角仕掛けを確認しなくては………
糸を確認しに階段へと向かう。
手探りで糸を探る。
ピッ
何かが指に引っ掛かった。
仕掛けは無事。
でもバケツは落ちていない。
アイツはそもそも何処………………
その思考は中断する事となってしまった。
ジャブッ!
何故なら、頭の上から降って来た大量の泥水を被ってそれどころでは無くなってしまったのだから。
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