正に教授


餓鬼の雰囲気が変わった。

さっき迄は慌てふためいて無様だった。直ぐに終わると思っていた。が、一瞬にして目の色が変わった。

その目は明らかに餓鬼がしていい目じゃない。この世の悪と闇と汚物の巣窟を体感……どころか俺達以上に知っている奴の、コッチ側・・・・の人間の目だ。

その目になった途端如何だ?動きが変った。

先ず俺達を狙おうとしなくなった。蛇と熊相手に専念し始めた。そして、さっきは蛇と熊に翻弄されていた小娘が、今では蛇と熊、それを操る俺を手玉に取り始めている。

蛇を動かそうと思えば熊の体が俺の視界を塞いで蛇と餓鬼を見えなくする。

かといって熊を動かそうと思えば蛇が視界の邪魔をして熊と餓鬼が見えなくなる。

動きの精度が明らかに違うものになった。

………手加減をしていた?違うな。あれは本当に追い詰められていた。たとえ演技だったとしても演技の意味が無い。

手下も投入して潰しに行くか?いや……止めよう。この二匹を投入しては部下が巻き添えを喰らう。

何より、あの面をした餓鬼が何かを企んでいない。という事は考え辛い。

下手に突っ込めばおそらく一網打尽にされる。一匹こちらに戻してもう一匹だけで仕留めるか?止めておこう。二匹相手で余裕の表情まで見せている。一匹だけにした途端、戦況が瓦解する可能性が有る。

二匹で様子を見て、あわよくば仕留めてしまおう。

出来なくても消耗くらいはさせる事が出来る筈だ。




とでも考えている顔だな、あれは。

蛇と熊を交互に相手にしながら髭面の顔を見る。

二匹を交互に、髭面の視界を塞ぐように立ち回りながら避ける。

さて………どうしてくれようか?……………そうだ。

「シェリー君?」

「何でしょう教授?」

「この世界に他人の肉体を自分の意のままに操る魔法や技術は有るかね?」

「………その類の魔法や薬品が有る。とは聞いたことが有ります。ですが、それはかなり高名な魔法使いが使っていた、巨大な犯罪シンジケートが悪用していた、ある国で軍事目的の研究が行われていた。程度の、半分以上が眉唾の噂でして………………」

「ならば良し。それ位なら丁度良い。」

尾を器用に使って薙ぎ払おうとしてきた蛇の尾を跳躍して回避した後、その尾に飛び乗って近くに居た熊へと接近。熊の頭に飛び乗った。

「グゥゥゥゥロロロロロ!!」

頭の上の邪魔者を引き裂こうと二足歩行になって前足を頭に突き立てようとする。

遅い。

「さぁ、見ていたまえ。これが私の魔法だ。」


『○○』


飛び乗った熊の頭にとある魔法を放った。次の瞬間、熊が大人しくなり、四足歩行に戻った。


「シャー!!!」

熊の事をお構いなしに蛇が飛び掛かる。

毒牙が有るようだし、まとめて大人しくして貰おう。


『○○』


蛇の頭がシェリー君の首筋を捉える数cm手前で毒牙の動きが止まった。

蛇も大人しくなった。


「おい………おい!何してる?サッサと絞め殺せ!食い殺せ!」

髭面が大人しくしている獣達を見てかんしゃくを起こし始めた。

やれやれ、野蛮だ。

まぁ、望みがそうなら、そうさせてあげよう。

「そこまでいうのであればお望みの通りに。さぁ、お行きなさい!」

熊の頭に乗ったまま二匹にそう言う。



熊と蛇が賊達に襲い掛かった。

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