一歩踏み出す
シェリー君は考え始めていた。
「色は24色、枚数は35×50枚。
何かの言葉を示している?それとも三次元の座標?それとも乱数表を用いた暗号?
それとも何かの法則をタイルを歩くという動作で再現する?」
「落ち着きたまえ!」
パニックでまた如何にかなりかけた所を止める。
二回目はかなり直ぐに落ち着いた。
「全く、面倒な式や法則を教えたのは私だが………………直ぐにそうやって面倒な式や法則に当てはまると思い込んで取り掛かるのは如何なものかね?
先ず、今の状況を羅列してみたまえ。」
「はい。
・私は村に来た方に変装、仮装してここに居ます。
・ここはその方々の拠点入口です。
・そしてここは、決められたタイルのみを踏まねば吊り天井の仕掛けに潰される仕組みの警備システムです。
・そして私は正しいタイルの配置を知りません。」
「幾つか問題があるが、まぁ良いだろう。
では問題だ。
現在の状況で、
「????……?」
落第点だ。
「先ずはこの洞窟設備だ。
洞窟は人工的に掘られて灯りまである。
だと言うのに、何故警備システムの目隠しが暗幕なのかね?
これだけの洞窟を掘れるならば、扉や防音を施しても良い筈だ。 「防音、ですか?」
「そうとも。音も大事だ。
暗幕では足音が後続の人間に丸聞こえ。その足音から正解を導き出す事も出来てしまう。
1750枚のタイルを仕掛けた輩がやるにしてはお粗末過ぎる。
不自然だ。」
「流石に音だけで判断するのは教授にしか出来ないと思いますが…確かに!」
「そして、このタイルと灯りだ。 シェリー君、君はこの状況、弱い火の灯りの中で、おまけに風で揺らぐ不安定な光源の中、白と灰色、赤と紅と朱と緋の色の違いを判別出来るかね?」
「…………無理、ですね。
多少明るいので赤と青くらいなら判別は出来ますが、赤と紅と朱と緋ともなると……これ、もしかして正解を知っている方々でも…」
「あぁ、下手すれば色を間違えて死にかねない。明らかに無差別に殺す気の色のチョイスだな。」
タイルの配列を見ると、よく似た別の色が隣り合って並ぶ箇所が幾つか有る。
この仕掛けが色で対応するタイプなら、たとえ正解の色を知っていても見間違えて吊り天井の餌食になりうる。
そもそも24色の中に鈍色や鶯色や飴色というマイナーな色を入れる辺り、明らかにおかしい。
「それだけではない。
タイルの大きさも20cmと男性の足の大きさからしたら小さい。
表面の滑るタイルの上をつま先立ちで飛び回るのは転倒の恐れがあり………かなりリスキーだ。」
これだけの不親切設計ならば何人も死んでいる筈だ。
費用対効果の割合がおかしな事になる。
「では、この仕掛けは初めから相手を通す気が無いと、そう言うのですか!?」
シェリー君の語気が強まる。
「落ち着きたまえ。次の問題だ。 現在の状況で、
設備の不自然さだけなら頭が悪いで済むが、設備以外で不自然な点を見出だせば、それは一つの回答に至る。
「……そう言えば、タイルが綺麗すぎます。
私の前にここを通った方は足が泥だらけでした。しかし、タイルを見たところ、泥が足跡になっているようには見えません。」
「あぁ、確かに、ここを通ったなら、タイルが泥だらけになっていても良い筈だ。
では、この道はフェイク。
他に隠し扉があるとでも言うのかね?」
「いえ、隠し扉は見受けられません。」
そう言って考え込み始めた。
「泥がヒントにならないように脱いだ?
いえ、しかしそれでは足音の説明がつきません。
…!わざと聞かせた?でも何の為?
そもそもこの数を………」
シェリー君の思考が巡る。
さて、幽霊であっても頭脳明晰、容疑知らずな完全犯罪者として、わざとらしくヒントを与えよう。
「そもそも、あの小僧はメモもなく正解に辿り着けたのだろうかね?
私ならまだしも、最短でも10mの綱渡りをヒントやメモ無しでやりたいとは思うまい。」
その瞬間、シェリー君がハッとなって辺りを見回した。
タイル、暗幕、見張り…………それらを見て………
「解りました。行ってみます。」
そう言いながらミス即生命の危機に繋がるタイルの道へと足を踏み出した。
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