二四色
「次だ、来い。」
暗幕が割れて、顔と手が出て来た。
暗幕の裂けめに足を踏み入れる。
そこには予想通り面白い、珍妙なモノが広がっていた。
「これ………は?」
「聞いた通りなら、スパイ撃退用のトラップ………だね。」
シェリー君が固まるのも解らなくもない。
暗幕の向こうに案内され、シェリー君が見た光景は異様であった。
我々が立つ場所は地面に小さな穴が幾つか空いている。
それは問題ではない。
目の前手前側には、暗幕から手と顔を出した男がさっきの老人同様に洞窟の壁を背にして大きな木箱に穴を空けたような足元の見えない机に座っていた。
そこには何も驚きはない。
問題はその奥の光景だ。
ある程度整備されていたとは言え、先程まで歩いていた地面には凹凸が有り、何より当然だが、その地面は、岩の色をした岩の地面であった。
何を言っているか解らない?
今の頭の悪い説明だけなら遂に呆けたかと思われても仕方有るまい。
目の前の地面には、表面に凹凸の無い、計24色のカラーバリエーションの有る、縦横20㎝のタイルが、洞窟の地面に隙間無く敷き詰められていた。
7mを敷き詰めているため、横は35枚のタイルが並び、奥行き10m
、つまりは50枚のタイルが縦に並んでいた。
解るだろう?35×50の合計1750枚のタイルが岩の色をした洞窟の地面を
赤・青・黄・紫・緑・金・灰・橙・桃・白・黒・茶・紺・朱・鶯・緋・水・藍・銀・桜・鈍・紅・栗・飴色のタイルが幾何学模様となって埋め尽くしているのだ。
戸惑いも無理はない。
「何時もの事だが、説明させて貰うぞ。」
男はそう言って幾何学模様のタイルを指差して言った。
「ここから先に進みたきゃ、正しい順番、正しい色のタイルを踏んで歩いていきな。
何踏めば良いかは知ってるだろ?
あぁ、それと、知らない人間が間違った順番、間違った色のタイルを踏んだら……………」
そう言いながら男は近くの小石を拾い上げ、無造作にタイルに放り投げた。
カッ!カラカラカラカラ………
石がタイルにぶつかり、跳ね、少し転がり、静止した次の瞬間。
がチャリ
何かの機械か、はたまた仕掛けを動かしたような大きな音が聞こえ………
ギャリギャリギャリギャリギャリ
ガチャン!!
轟音と共にカラフルなタイルが一色になった。
違う。タイル張りの部分が吊り天井で押し潰されたのだ。
「こうなるから、気を付けろよ。」
吊り天井が持ち上がり、落ちてきた天井に巨大な針のような棘が付いているのが見えた。
「教授!」
シェリー君の顔が真っ青になっていく。
名前を呼ぶだけだが、そこには明らかな助けを求める意味が籠っていた。
「吊り天井はタイル表面のギリギリまで落ちて、タイルが傷付かないように調整しているようだね。 三流悪党にしてはまぁまぁ頑張るじゃないか。」
「教授!」
タイル上に無事残った石を見ながら笑う私を見て、またしても同じことを言う。
今度は明確な怒気を孕んでいた。
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