関門


山道を歩いて行くと、道沿いに幾つかの洞穴が有り、入り口からは風が流れて、それぞれの入り口前には大きさ種族がバラバラな足跡や、何かを引き摺ったり、運んだりした跡が残っていた。

間違い無くここだろう。

「こんな場所…………私も、何度もここへは遊びに来ていましたが、私が居た頃にはこんな所、有りませんでした。」

辺りをキョロキョロと見渡すシェリー君。

洞穴からゴゥゴゥと風が流れて来て、風に乗ってガヤガヤと人の声が聞こえてくる。

ここで間違いない。

「何処から入りましょうか?」

そう訊ねるシェリー君。幾つも有る洞穴を見回して迷っている。

「ふぅむ。まぁ、一番足跡が多い場所で良いのではないかね?」

少なくとも、『使用頻度が最も高い場所が牢獄』なんて事は無いだろう。シェリー君は一番大きな洞穴へ続く場所へと足を踏み入れて行った。

一番大きな穴は、縦横それぞれ7mは有ろうかという巨大なもので、滑らかな壁には灯りが間隔をあけて燃えていた。暗い洞窟筈の洞窟が灯りに照らされてぼんやりと明るくなっていた。

「随分と便利な、立派な拠点なのですね。」

「アァ、労働力がかなりある様だからね。これだけのものを短期間で作れたのだろう。」

「………、にしても、大掛かり過ぎる様な………」

あの村に山賊が現れたのは一カ月前。

村に現れる前にここを拠点にして、山賊が総出で働き、その後に村で食料と人力の不足分を確保したにしても、この設備は確かに手間が掛かっている。

久々に里帰りした人間シェリー君がこの洞窟群を知らなかったという事は、これは新しく作られたものである事に間違いはない。

しかし、洞窟がここまで大きく、しかも表面をここまで綺麗にするには村一個の頭数で足りるか?否。あの村の様子からして100人と居るまい。

ではどういうことか?


「そこで一回止まれ。」

そうこうしている内に洞窟の先に居る男に投げやりな声を投げつけられて止められた。

シェリー君は一瞬体を強張らせかけたが、何の問題も無い。変装に不備無しだ。

「あぁー、坊主か。こっちに並べ。」

声の主は洞窟の壁に背を向けた状態で、椅子に座った老人で、目は半分以上瞑った、眠ったような男だった。

その隣には、泥だらけの靴に泥で変色した服を身に着け、背を向けた男が一人。

妙なものの前で佇んでいた。



洞窟の奥へと進む道を覆って見えなくしている暗幕だ。


「次の奴、来い。他の奴は待ってろ。」

暗幕の奥から男の声が響き、暗幕が中央から割れて顔が覗き、泥だらけの男に手招きをする。

パタパタパタパタ…………

泥まみれの男は泥で汚れた靴を踏みならし、割れた暗幕の中へと入っていった。

「アァ…………………。」

座っている老人は、指を指して泥だらけの男の居た所。まだ乾いていない泥の足跡が残っている場所に立つように促し、老人が口を開く。

「毎度言ってっから知ってると思うが…………この先は侵入者防止の為の床の間だ。

説明は向こうの奴がしてくれるだろーが、文字通りドジ踏めば、死ぬからなぁ。

死なない様に気を付けろよ。」

やる気の無い口調で物騒な事を言った。

まぁ、私も人の事は言えないがね。






タン!タタタタ       タッ タンタタタンタンタンタンタンタンタン





暗幕の向うから奇妙なステップが聞こえた。


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