かいてきなたび 26

「どうしたんだい?」

「何のことですかい?」

荷台の二人は首を傾げている。

シェリー君は一言目で少し疲弊したのか、二言目が中々出てこない。

手伝うか?

否、止めよう。

それはシェリー君の覚悟を侮辱することに繋がる。

ここは待とう。




「皆さんが      皆さんが、何を運んでいるかは知りません。ですが、皆さんが馬車の中に何かを隠して運んでいる事は解っています。

それが良い物でない事は解ります。

後ろ暗い物だという事は解ります。

どうか   どうか、もうそんな事、止めて下さいませんか⁉」

息を切らしながらシェリー君が言い終えた。

それを聞いた途端、赤毛女と大男の顔が明らかに歪んだ。

それも、私が気付くレベル。では無く、100人中100人が見て気付くような、誰が見ても気付くレベルの。である。

「い!いきなり如何したんだいシェリー?」

「そうでさぁ、どうしたんですかい?」

解りやすい動揺を抑えながら二人がとぼける。

「皆様と会った時からおかしいと思っていたんです。

何故この様な場所に居るのか?……何故ここをわざわざ通って来たかという事です。」

この三人組との出会い。

それは学園から出たシェリー君が帰省の最中に、後ろから馬車で来た三人に見つかった事に端を発する。

その時点で既におかしいことが一つある。

「学園方面には基本的に貿易の拠点になるような場所や商品を得られるような場所は有りません。

あったとしても、商人の方は基本的にこの道を使いません。

何故なら、この道を行った先にはまともに商業が出来る様な大きな町が無いからです。

何故、皆さんはここを通っていたのでしょう?

この道をリンゴや干し肉を積んで商売をするなんて不自然です。」

道中、轍のが有った。

轍とは馬車などが通った跡・・・・・・・・・を意味する。

つまり、轍の跡とは重複表現or馬車の車輪跡の痕跡。要はあまり使われなくなって車輪の溝が薄くなっている状態を示している。

この場合は後者だ。

地面にはっきりした馬車の車輪の痕跡が無いという事は、ここは基本的に馬車が通ることはないという事を意味する。

それは何故か?

馬車がここを通る必要性が原則として無いからだ。

まともな需要がここには存在せず、売れないからだ。

「でも、需要は0じゃない。

アタシらみたいな少ない需要に応える奴等が居ないといけないのさ。」

「そ、そうですよ!俺らはその……善意の商売人なんでさぁ。

利益が少なくても飛んで行って需要に応える……採算度外視の商人なんでさぁ!」

二人の額に汗が見える。

目は何処を見ているのか分からなくなり、指先や足を無意味に動かし、必死に言い訳をする。

「『あぁ、馬車に積んである荷をな、ちょこっと捌いて………で、仕事が終わったらテキトーにそこいらで羽でも伸ばそうか?それともその金を元手に大きな仕事でもするか?って言ってんのさ。』。スカーリさん、これはあなたが言った言葉です。

おかしくありませんか?」

「何がだい?」

「『採算度外視の商人』が『荷を捌いたお金で大きな仕事をする』。矛盾していませんか?

採算度外視で大きな仕事に繋げられるだけの利益を出す?どうやって?」

「そいつは……………」

大男は余計な事を言った。

『採算度外視の商人』なんてことを言わず、『少ない需要に応える商売人』だけで止めておけば、『供給量の少なさに目を付けてぼったくる商人』として成り立っていたのだろうが………余計な言葉の所為で矛盾が生じ始めた。

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