かいてきなたび 25
「馬車の準備、出来ました。」
シェリー君が馬車の支度を終えた。
顔には少し疲れが見て取れる。
「よし、じゃぁ行くよ!パニンニは御者を!私が前を、シェリー、デカン、アンタ達は後ろを見張りな!」
「解りやした。」
「はぁいよぉ。」
「解り、ました。」
4人は馬車に乗り、出発する。
ガタゴトガタゴト、軽やかな音を立てて馬車が走り出した。
激走の衝撃でガタンゴトンと樽が飛び跳ねる。
「ガゥ!」
熊が樽と一緒に飛び跳ねる。
「警戒しておきな!」
「解りやした。」
「…………解りました。」
矢張り先程からシェリー君の元気が無い。
「シェリー君、解らない訳では無いが、敢えて訊こう。如何したのかね?見た所悩んでいるように思えるのだが?」
「教授には解りますか?」
「馬鹿にしないでくれたまえシェリー君。私を誰だと思っている?」
「……………流石ですね、教授。」
「この私の前ではシェリー君とて未だ足元には及ばんよ。精進したまえ。」
「…………………敵いませんね。」
「何時か敵うようになる。なる様にして見せるさ。
では、シェリー君、君の悩みに答えよう。
君の望むようにすると良い。
君がそこまで悩んでいるという事は、それだけの大事、悩むべきことだ。存分に悩み、そして、自分の本当に望むことをしたまえ。
なぁに、公共の福利に反するような真似は私の教え子はしない。
今のシェリー君が悩みに悩み、計算を重ね、今以上の最適解と誤りを疑い、ミスの無い様に、より良い解答を求めて限界まで研磨された計算式。それに自信を持ちたまえ。
なぁに、もし、間違えたとしても、シェリー君、君には私が居る。
その時は、私が間違いを正そう。私が君に教え諭すものとして、模範を見せよう。君に力を貸す者として、また一緒に考えよう。
『若者よ、存分に悩み、失敗し、後悔し、次に活かせ!』だ!
さぁ、思い切り、やると良い!」
背中を押す。
シェリー君はこれ位した方が良い。
少しばかり強めに押して問題は無い。
「………………解りました。
私も、覚悟を決めました!」
その眼には静かだが、強い意志が確かに在った。
「ガゥ?」
熊がいつの間にかシェリー君の足元に来ていた。
「ガゥ?ガゥガゥガウ」
「………………あなたもありがとう。」
そう言って熊を抱きかかえる。
ガタゴトガタゴトガタゴトガタゴト……………軽快な音を立てて馬車が草原を駆ける。
「皆さん!………………………。」
「どうした⁉」
「追手ですかい⁉」
意を決したように口を開いたシェリー君を見て、二人は追手と勘違いしたようだ。
「どうしたぁ?敵かぁ?」
御者席の細男もそれに驚いてこちらに声をかける。
「みなさん………………こんな事、止めませんか⁉」
意を決したシェリー君の心からの叫びはそこから始まった。
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