かいてきなたび 14
「こりゃぁ……………」
「ひでェモンですねぇ。」
「栄えている町ってのは…………信じられねぇなぁ………」
「この街に………何が…………」
私以外の4人が絶句していた。
林檎で栄えた街『ジヘン』
その言葉からイメージしていた想像図が現在進行形で崩壊しているのだろう。
街自体の規模は大きい。
建物も沢山有り、栄えていた時期が有ったのは解る。
が、それは過去の話である。
建物こそ有るが、その大半はあちこちが崩れ、廃墟寸前。
中には元は大きな建物だったであろう、しかし、今となっては石の塊と廃材も捨て置いてあった。
栄えている街?
だとするのならば我々が見ているものは幻覚か薬物のもたらす性質の悪い夢だな。
名探偵ではあるまいし、私は薬物などやっていないがね。
無論、シェリー君にもそんな事は許さない。何せ、アレは頭脳の冴えを鈍らせるからね。
「あぁ……旅の方ですか…………申し訳有りません、今、この街は立て込んでおりまして………如何かお慈悲を……食べ物でもお金でも良いのです。何か………お恵みを………」
建物の合間(といっても、廃墟という一塊となって建物の合間なんて有って無い物なのだが)から現れた、ボロボロで、まんべんなく汚れた布で全身を顔まですっぽり纏い、よろめきながらこちらに近付く男が居た。
三人組が自分の見ている光景に打ちひしがれている間、シェリー君は私に言った。
「教授、何か……何かがおかしくないですか?
何と言いますか…根拠は有りませんが……何か違和感が。」
普段なら馬車から飛び降りて介抱でもしそうなシェリー君が男を見て、そんな違和感を覚えていた。
手を差し伸べるべきか否か、考えあぐねていた。
シェリー君の『弱っている人に手を差し伸べたい』という天使。
私に仕込まれた『推理と観察力、そして欺瞞、猜疑心』という悪魔。
その二つが眼前の男にどうするか、せめぎあっている。あぁ、明らかに私の悪どさが際立っているが、そこは置いておこう。
要は、シェリー君は今、 論理と倫理に板挟みであった。
まぁ、残念ながら、当然のごとく罠だな。
布はぼろぼろではあるが、布の損傷が一定だ。
切れたり、ほつれたり、擦りきれたり、稀に焼け焦げたり、何らかの災害に見舞われた人間の服には大小多種多様な損傷が有って然るべき。
しかし彼の着ている物は摩擦による細かい傷と無理に引き裂いただけの傷ばかり。損傷が一定なのだ。
汚れも斑に汚れている訳でなく、服を脱いで砂か泥を掛けて放置した様な、染めた様な汚れ方をしている。
雑ではあるが、間抜けであれば容易に騙せる水準のレベルの罠。
一体、どんな良からぬ事を企んでいるのだろうかね。
あぁ、そうだ。シェリー君には取り敢えず及第点をあげるとして、応えねばなるまい。
「その違和感は間違いではない。それは正解だ。では、一体何故かね?」
街の破壊跡は間違いなく本物。
しかし、目の前の男は偽物のボロ布を纏って本物を演じている。
これは如何いう事かね?シェリー君。
「……………………囲まれていますね?」
正解だ。
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