かいてきなたび 11

「やりました………。お二人共、拘束をお願いできますか?」

そう言って倒れているであろう猛獣の方に目をやる。

「お……ぉぉ……大丈夫ですかい?シェリーちゃん?」「怪我は無いかぁよぉ⁉」

「えぇ、何とか無傷です。」

「ぉぉお……そりゃぁ………」

「すげぇゃぁ………」

掛ける言葉が見つからず、そのまま猛獣へと向かっていった。

「あっ、これを。この糸を使って下さい。

縄よりも頑丈になっていますので。」

シェリー君が忘れていたとばかりにそう言って、懐から蜘蛛の糸を取り出して投げる。

「あぁ…有難く使わせて貰いやす。」

あの糸なら逃げられる事も無いだろうし、シェリー君の手法であれば直ぐに復活……なんて事も無いだろう。

確実に体を動かせない様な手を使ったからな。

「良いぞ、シェリー君。よくやった。」

「ぁりがとぅ ござぃます 教授 」

そう言いながら、

ペタン

その場に座り込んでしまった。

「大丈夫かい⁉怪我は⁉痛い所は⁉血は出てない?!大丈夫⁉」

赤毛女が泡を喰いながら矢継ぎ早に質問になっていない質問を繰り返しながらシェリー君の身体中を確認する。

ある意味過保護すぎる。

「アンタ達!何やってんのさ!」

「ヘィ!」「済まねぇ………」「スカーリさん、あまりお二人を責めないで下さい。」

「何言ってんだい⁉か弱い乙女を放って、危うくこの娘を殺しかけて、この娘に庇って貰って!

アンタ達、男として恥ずかしくないのかい⁉」

「しれっと姐さんも乙女に入ってルギャハッ!」

「………………でもよぉ、シェリーちゃんは兎も角、姐さんなら熊の一頭二頭ぐピュフルッ……」

「黙りな。」

華麗な拳が男二人の頭に入った。

「まぁまぁ、スカーリさん。結局、私達全員無事だった訳ですし………もうこれであの猛獣が悪さをする事も無いでしょう。」

そう言ってぐるぐる巻きにされ、焚き火の灯りに照らされた猛獣を示した。

全長約4m。巨大な、黒い毛皮の熊。

先程のシェリー君の一手が効いたのか、大人しく眠っていた。

「そういや……小石をバラ撒いた辺りまでは何をしていたか解ったけど、その後何をしたんだい?

あんな魔法、見た事が無い。あのサイズの熊を眠らせるなんて……強すぎないかい?

アタシには空気をちょいと弄ったようにしか見えなかったんだけど…………」

「そうでさぁ。ありゃ一体………」「見ていたけどよぉ…どうしたって熊をぶっ飛ばせるようにゃ見えなかったよぉ………。」

「あぁ、それは………………」

あの状況ではシェリー君が何をしたか解らなかっただろう。

確かに、シェリー君のやった事は非常に解り難かっただろう。



説明しよう。

最初の一手で、小石をバラ撒いてシェリー君がやりたかったことは3つ在った。

1.相手の位置を特定する。

2.相手にこちらが位置を把握したことを知らせて、単純で激しい運動をさせる。

3.位置だけでなく、相手の頭の位置を把握する。


相手の位置を特定したのはそもそもそうしなければ攻撃が出来ないから。

単純で激しい運動をさせる事、相手の頭の位置を把握したのは、とある攻撃を確実に、かつ効果的に、命中させる為。

そう、『とある攻撃』

彼女がやった『気流操作』は、一定の領域にある空気を操る魔法。

それだけでは無論、殺傷性も、相手を昏倒させる力も無い。

だから、シェリー君は頭の場所を特定し、ピンポイントで頭の部分、呼吸器官周辺の空気の酸素濃度を低下させて、相手を酸欠にするように仕向けた。

しかし、この短距離でそれをやっても、直ぐに酸欠になるとは限らない。

なにより、酸欠状態に気付いて不規則な動きをされてしまえば、あの魔法は破られる。

だから、『単純で激しい運動をさせる。』必要があった。

単純な動きであれば、相手の動きを簡単に予測し、その上で体内の酸素消費を増加させることが出来る。

Q.酸素が無くなり、その状態で激しい運動をすればどうなるか?

A.酸欠であっという間に卒倒する。

シェリー君がやったのはそれだけ。

石を撒いただけ。一部の空間から酸素を奪い取っただけ。

しかし、それだけで巨大な熊を倒すに至った。

よくやった。シェリー君。





「へぇぇぇぇぇ……」

「そんな方法が…………」

「スゲェなぁよぉ………」

三人組が感心していた。

………………………………非常に複雑な気持ちではあるが、悪い気は…しないな。


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