かいてきなたび 10

シェリー君の魔法について、少し話そう。

彼女の使う魔法は君達の期待とは大きくかけ離れているだろう。

火は出せるが、精々薪に火を付けるレベルで大型の猛獣を焼き殺せる火力は無い。

水は出せるが、水鉄砲よりも強い程度で洪水級の、辺り一帯洗い流すようなことは出来ない。

電撃は放てるが、さっきも言った様に雷に遠く及ばない、痺れる程度。

空気、風を操作する事が出来るが、竜巻宜しく建造物や人を吹き飛ばす事など出来はしない。

他にも多種多様な疑似的な自然現象を引き起こすことが出来る。が、どれもこれも前の4つ同様に人間への・・・・殺傷力は無い。

努力の甲斐あって精密さは折り紙付きだが火力は十分とは言えない。

人間さえカタログ通りならば殺せない代物。

猛獣ともなれば足止めが出来るかどうかも怪しいものだ。

しかし、シェリー君はその過酷な状況を撥ね除ける気満々だ。

そして、それはただの精神論では無く、確実にそれを実行する考えも有るようだ。

暗闇は相変わらず。

相手の姿も解らない。

圧倒的にこちらの戦力は足りない。

その上で……………どうするかね?


『小石雨』


月に向かって手を掲げ、天から小石をばら撒く。

落下する石は大きい物で直径2㎝が良い所。

到底殺傷力は無い。

「一体何を…?」

「何だぁ?」

危うく忘れかけていた男二人が騒ぎ出す。

「静かにして下さい!」

気圧された二人が黙る。

石が周囲に降り注ぐ。

パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ  パタパタパタ  パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ

巧い事をする。

私の様な計算が出来ないのであれば視覚以外の感覚を用いて相手の場所を見えるようにすれば良い。という訳だ。

小石を降らせて地面と猛獣にぶつかる音の相違で相手の居場所を特定したのだろう。

しかし、生憎だが、だからどうしたという話になってしまう。

発見は出来た。しかし、この方法の弱点は、ある程度相手に知能が有ればその意図に気付かれるという事だ。


グォウ!


猛獣が突撃してきた。

場所がバレた時点で闇に紛れるという行動に意味が無くなり、トップスピードで突進しに来たのだろう。

 『邪魔で厄介なを始末するために。』

まともに正面からやりあえば確実に勝ち目は無い。

石の音から巨体である事は予想できた筈。

さぁ、どうする?


『気流操作』


シェリー君がある場所の空気に干渉した。

非常に……参った事になった。

最善手だ。

「ゴホォォルルルゥゥゥゥ………………………」ズン!

暗闇の中で、何か大きなものが倒れる音と、目を回した獣の叫びに似た苦悶の様な何かが響いた。

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