かいてきなたび 6

パチパチパチパチ

焚き火が暗闇の中でポツンと光を放っていた。

焚き火の燃える音の他には三人分の寝息。

焚き火の前に誰かが居た。

焚き火の火に映る影が揺らぎ、誰かが何かをしていることを教えてくれる。

ソーイングセットから棒に巻き付けられた糸を取り出し、その下に隠された、色違いの糸を取り出した。

それを適当な長さに切り、格子状に編んでいく。

そして、その格子状の糸の端に、何処からか拾ってきた石を括り付ける。

縦横5m。

格子状の糸に石を取り付けた奇妙な物が完成した。

まるで投網。

しかし、この近辺にそんなものを投げ入れるような大きさの川や湖は無い。

「さて…あとはセットをして、最適なタイミング・角度・力で投げ入れるだけだ………。」

無防備極まりない三人を余所に、準備を始める。

「やはり、何かが居るのですね。教授。」

頭の中から声が聞こえた。

「シェリー君、起こしてすまなかった。少し体を借りているよ。」

作業を進めながら何食わぬ顔でそう言った。

「大丈夫です。先程から起きていました。

教授、やはり、何かが居ますね?」 同じ問いを再び投げ掛ける。

「さぁ?小魚一匹釣れれば万歳だと…「そうではありません。私が言っているのは、生き物が居ない、この静かな夜の中の話です。」

気付いていたか。

良い傾向だ。

「日中、馬車の運転をしながら辺りを見ていました。

非常に草木があり、所々に森があり、木の実も有りそうで、野生動物の生息地にはうってつけの場所が幾つもありました。

しかし、私が運転している間…いえ…一日中ずっと、生き物を一匹として見かけませんでした。

無論、私の観察力が未熟だった可能性は有ります。ですが、スカーリさんが夕方、この近辺で生き物を見付けられなかったとなれば話は違います。

旅をする方にとって、狩猟は数限られた、重要な食料供給方法。慣れた方ならば見逃すとは考え難い。

今のところ、襲えるであろう我々が襲われていない所を見ると、夜行性動物が存在する可能性も無し。

つまりはこの豊かな土地に生き物は見当たらない。と言うことです。」

「では………何故私は投網を作っているのかね?可愛い教え子に魚を獲りたいと思っているだけかもしれんよ?」

意地の悪い笑みで応える。

証拠を用意していない探偵を嘲る犯人の気分だ。

不思議と悪い気はしない。

むしろ…懐かしい。と感じてしまう。

「考えました。

生き物が居ない理由を。

私とスカーリさんの見落としが無いと仮定した場合、生き物は居なかった事になります。

しかし、この場所には生き物が豊富に居て良い筈。しかし居ない。

そして、教授の作っているものは捕獲用のネット。

しかも、大きさからしてかなりの巨大生物用。

材料に普通の糸でなく、以前学校の外で見つけた蜘蛛の頑丈な糸を使うところを見ると、相当な凶暴性のある生物を想定して網を作っていると考えられます。

巨大な、しかも狂暴な生物用……………明らかに魚用ではありませんよね?」

堪らないな。教え子の成長を見るのは。

蜘蛛の頑丈な糸と言うのは、夏休み前に見つけた蜘蛛から採れる糸の事だ。

元々は獲物を木々にぶら下げる蜘蛛の糸なのだか、かなりの強度を持っていたため、糸を回収、加工してソーイングセットに仕込んでおいた。

これが中々役に立つ。

「生き物が居る筈の場所。

夜中の無防備な人間が居るのに一向に気配すらない。

教授の対猛獣捕獲用投網。

この辺りには生態系を壊す様な巨大生物が居る…………という事ではありませんか?」

ブルォォォオオオ!

馬が騒ぎ出した。


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