教授の特別特殊講義
良いじゃないか、偶には悪役令嬢との厭な攻防ばかりの閉鎖空間では無く、自分の故郷たる安らげる場所に行くのも一興だろう!
そして、学園内で籠って勉強をしているだけでは得られない知識も有る。
私は決して勉強机に張り付いていた訳では
ビシビシビシビシビシ!
おっと、久しぶりだね。相変わらず痛い!
あぁ、覚えてはいない。が、決して勉強ばかりでは無かった筈だ。
机に齧りついて勉強した結果得られるのは所詮、机上の空論。
そして、机上の空論というものは、あくまで『最高の条件を人為的に揃えて、最も条件の良い状態で成功する事』を意味する。
そして、この机上の空論は対人における完全犯罪においては役に立たない所か厄ネタだ。
対人においては最悪の状況下で稼働する事が最低条件だからね。
最高の条件?そんなモノ私は今まで見た事も揃えた事も………ビシビシビシビシ……無い………筈だ!
下手に机上の空論を集めた犯罪は、僅かな予想外の出来事だけで瓦解する。
だから机上の空論は駄目か…………と言えば、そういう事では無い。
机上の空論を机上から出して、あらゆる状況下でそれを検証し、空論に実態を与え、空虚な理論を堅牢な理論へと、自分の理論へと変貌させることに意味が有る。
机上の空論は発展させること前提。
それは忘れないでくれたまえ。
まぁ、要は、『基礎はある程度やったから応用や実践経験を積んで貰おう。』という訳だ。
今歩いている道。
轍の跡がある事から、様々な人に会うだろう。
数日有れば野宿の可能性も有ろう。
獣や二足の獣の夜襲も考えられる。
ありとあらゆる状況で私が動けるとも限らない。
何時も彼女に憑依していない以上、不意に先手を打たれては打つ手が無くなる。
という訳で、彼女には夏休みの間、この度の間、実践&実戦の特別(過酷な)特殊講義を受けて貰おうと思います!
いざという時、彼女は一体何処まで出来るか?何処まで考えられるか?
パニックを起こしたとき、一体どうやってリカバーするか………?
そこら辺を今回は重点的に鍛えて貰おう。
さぁ、数日の間の楽しい楽しい時間の始まりだ!
なぁに、まだまだ未熟な彼女を徹底的に地獄に落とす様な真似はしないさ。
適度に負荷をかけ、徐々に徐々に負荷を大きくしていく。
これはあらゆる事柄における鉄則だとも。
不可は徐々に、相手のペースで行う。
さぁて…………この辺には…………何かあるかな?
フッ
「教授?どうかされました?」
「イヤなに、少し周りの様子を視覚と聴覚以外で観測してみたかっただけさ。」
足元が揺れて何かが近づいて来る気配が有った。
これは………残念ながら野宿云々を飛ばすかもしれないな。
…………タゴトガタゴトガタゴトガタゴトガタゴトガタゴトガタゴトガタゴトガタゴトガタゴトガタゴトガタゴトガタゴト
後ろから幌の付いた馬車が駆けて来た。
「取り敢えず退くとしよう。」
荷物を持って道の端に寄る。
運転席には短髪に赤毛の女が座っていた。
「あぁ!悪いね!」
ガタゴトガタゴトガタゴト……………。
馬車を止めて女はそう言った。
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