魔法VS教授


このガキ!




バキ!


壁が音を立てて砕ける。


しかし、ガキには当たらない。




ブン!


空を切る音が響き渡る。


しかし、ガキは風を受けて涼しい顔をしている。




ドッ!


突きを喰らわせる。


捉えたのは廊下の壁。




ブンブンブンブン!


縦横斜めと斬撃を重ねる。


煙を斬ったように手応えが無い。










当らない!








「何で避ける⁉


折角この私自らお前を殺してやるというのに。」


攻撃しつつ問いただす。


ガキの主張は信じられないものだった。


「?


直接的に殺そうが間接的に殺そうが、誰が殺そうが、殺られる側から言わせれば唯の迷惑な殺人に変わりは無いです。


私は未だ殺される気は有りませんので、躱させて貰います。




それに、『殺してやる』ですとか、『この私自ら』だとか、自惚れも甚だしいかと。


人の命を何だと思っているのです?まるで自分が神にでも成ったかの如く。おこがましいかと。


もっと言えば、丸腰の人間相手にさっきから掠り傷与えられない人間がそもそもどうやって私の事を自らの手で殺せるのです?」


………………!


「ガキが!


ガキだと思って手を抜いてやればいい気になるんじゃ無いよ!」


決めた!このガキは殺さずに切り刻む!


その後で拷問決定!


その後娼館に売っぱらって客にぶっ殺させる!








全力で死にたくなるような目に遭わせる。








「どんな事をお考えかは存じ上げませんが、その全てが無意味ですよ?


私に触れられない人間が一体私に何を出来ると言うのでしょう?」


醜い面に醜い笑み。


お前には生きている事を後悔させながら死なせてやる!


「フゥゥゥゥゥ!


ガキ、お前は知らない。夜間戦闘が昼間のソレとは全く違うものだという事を。


本気の殺し合いを。


私の本気を前にして生き残れる可能性が0だってこともなぁ!」




『黒剣化』




金属光沢のあった剣が真っ黒に染まる。




『黒体化』




肉体全てが真っ黒になる。






暗闇の中で白銀の剣と人間は目立つ。


それを克服すべく暗殺者や傭兵の知恵から生み出された夜間戦闘用魔法『変色魔法(黒)』。


暗闇に慣れている人間のみが生きられる環境を作り出す。


あのガキにはそれが出来ない。








全く見えない恐怖の中、身体をじっくり切り刻まれる恐怖を教えてやる!


血塗れになりながらその血の色も解らない、恐怖と闇と痛みに震えろ!




















私の前から脳筋が消えた。


どうも気配や殺意はあるところを見ると透明になるか、はたまた、全身を黒く塗って目立たない様にする魔法でも使ったのだろう。


私に魔法は使えない。


まだ実用に耐える代物ではない。


かと言って今、シェリー君に交代しては厳しいだろう。


「教授………大丈夫なのですか⁉ミス=パウワンが見えなくなってしまったのですが………。」


シェリー君が不安を隠そうとしない。


が、この程度なら問題無い。


「シェリー君、落ち着きたまえ。『基本その9:パニックは最も危険な物の一つである。』。そして、『基本その10:無理・不可能は可能性や可能を殺す凶器である。』だ。


見えなくなったと考えれば見えないかも知れないが、見えると思えば見える。」


「そうは言っても……………真っ暗闇で何処に居るかなんて……」


確かに、学校の廊下で灯りは無い。


相手は剣を持っていて、おそらく向こうは見えるのだろう。




『恐怖と闇が支配して私は動けない』と思っているのだろう。








馬鹿な。








目なぞ見えずともこの程度は問題無い。


「シェリー君、眼に見えるものだけが見えるものでは無いのだよ。」


「どういうことですか?」


「目が見えずとも、否、眼が見えないが故に見えるものも有るという事だ。


実践しよう。


脳筋の攻撃はこの中でも一切私に当たることは無い。」

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