謝罪は望まないさ。


「………………嘘ですよね?」


 「それをさっさと元に戻しなさい……冗談では済まないわよ?」


 二人の令嬢が唖然としていた。






 「嘘や冗談な訳が無いだろう?




 目撃者は無し。


 探されても見つからない。


 相手は逃げられない。


 私の手には殺すに足る凶器が有る。


 しかも、凶器が重石になって死体は上がらない。




 生殺与奪は此方に有る。


 そして、こちらには君を生かす理由は無い。


 どころか、君は井戸から出たら私を殺すと言っている。


 こちらには君を殺す理由が十分ある。」






 「…………ん………ん!ん!」


 豚嬢が井戸の壁を登ろうとし始めた。


 しかし、無駄だ。


 彼女の身体能力ではここまで登って来られない。


 例え登れても、脱出する前に石を叩き落して井戸の底に沈められる。


 「教授、冗談は止めて下さい!


 脅かすにしても酷過ぎます!」


 シェリー嬢が必死に抗議して止めようとする。


 「冗談では無いと言った筈だ。


 君は何で庇うんだ?


 殺人への罪悪感か?


 問題無い。殺すのは私だ。君は関係無い。


 それに、相手は君を豚と言っているんだ、まぁ、私は彼女の方が余程醜い豚に見えるがね。」


 「それが何だと言うんですか?」


 「君をさっきから同格の存在として見ていない。それは真実だ。


 つまり、彼女は自分と君が違うと言っているんだ。


 彼女は豚と読んでいるが、君は豚では無い。人間だ。


 しかし、同格でもない。






 よって、彼女は同じ人間ではない。


 殺『人』にはならない。


 気にしなくてもいい。


 蚊を潰すようなものだ。」










 豚嬢の眼に怯えが見える。


 今頃気付いたというのかね?


 これが、いじめという物だ。




 人を逃げ場のない井戸の底に追い込み、


 確実に相手を殺しに行く。


 抵抗できず、人の尊厳を奪われ、一方的に殺されていく。


 死体は沈められ、加害者は隠される。


 抵抗の許されない一方的な殺しだ。




 豚嬢。君がやっていた事はこんなものでは済まない。


 「止めろ!止めなさい!止めて!お願いだから!」


 本当に命の危機に曝されていると知ってやっと命乞いを始めた。


 「今まで君は相手を思った事が有る?


 止めてと言って君は私にしていることを止めた?」


 「だって………そんな事言ってない………。」


 死の恐怖の前で心が折れ始めた。


 「言わせなかったのだろう?


 下民だ何だと選民思想を振りかざし、思い上がり、相手を蔑み、陥れ、尊厳を踏みにじっていた。


 半分以上脅しだよ。


 解る?理不尽で、不条理な目に遭わされて、それでも犯行出来ない状態。








 もう、そんな目には遭いたくない。


 これが最後のチャンス。


 だから、君には死んでもらうよ。」


 ゴロリ


 井戸の周りの石が崩れる。


 ジャボン


 井戸の底に落ちる。


 「止めて、もうやめて、お願い。謝るから……………………」


 恐怖で過呼吸のような状態になっていった。


 「『謝られたら許さなければならない。』学校のあのルールは法律では無い。


 そもそも、謝られたところで心は晴れない。


 もし、晴れる事が有るとすれば、それは、




















 相手がこの世から居なくなった時だろうね。」
























 「あ゛―――――――――!!!!!」


 獣の様に叫び始めた。


 最早彼女の心は完全に折られた。


 では、お仕舞にするとしよう。


 「じゃぁな。豚嬢。」


 井戸に石を突き落とそうとしたとき…………






 ガシ!






 腕を掴まれた。




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