議論と救い



 「そこまでです。教授。」


 止めたのは自分の腕。


 否


 彼女が体の主導権を半分奪い返し、私の主導権部分を止めたのだ。


 「何故、君は止めるのかね?」


 「教授。もう、十分です。


 助けてあげて下さい。」


…………………………………………………………………………………………………………


…………………………………………………………………………………………………………


助ける…………ね。


 「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!


面白いことを言うね。


 君は馬鹿かね?


 相手はさっきまで君を殺すと言っていた輩だぞ?


 助けたら君が死んで奴が生きる。


 止めを刺せば君が生きて奴が死ぬ。


 どちらを選べばいいかは非を見るより明らかだろう⁉




 何より、君は豚嬢を許すのかね?」


 「………………いいえ。」


 「ならば殺すしか選択肢は無い。」


 「それは違います。教授。


 『助けて、両方生きる』という選択肢が有ります。


 私は彼女にされたことは許せません。


 でも、だからと言って殺したくは有りません。」


 「世迷い事だな。綺麗事だな。


 そんな理想論。あんな豚に通じる訳が無い。


 許さない?大いに結構だ!


 ならば仕返しをしたらどうだ?」


 「いいえ、絶対に嫌です!」


 「何故、そう言えるのかね?


 自分があそこまでされて、何故?」


「私がされたから!


私がされて嫌でした。


だから、私はそんな嫌な人間に成りたくないのです。


私は令嬢!


 誇り高き令嬢たるべきなのです!


 相手を殺さず、自分を生かし、どちらもやってのける!


 それが私の描く最高の令嬢です!


 私は決して、そんな真似はしない!」




 綺麗事だ。




 「…………………………………………………………………………………………………………ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!」


  ・


  ・


  ・


  ・


  ・


 気に入った!


シェリー君の意志の強さが気に入った。


 では…………今回は私が負けを認めようか。




 「後悔…………………するな。」


 「はい。後悔は絶対にしません!」


 ゴロン


 草原に石が投げだされた。






 「ミス=コション!大丈夫です!


 私はあなたを殺しません!


 ……………………………………仲直りを、して貰えませんか⁉」












 「仲……………直り?」


 水中で暴れ、死にかけていた豚嬢が息を吹き返した。


 「はい。


 私も言い過ぎました!


 驚かすにしても非道な行為をしてしまいました


 令嬢にあるまじき行動です!


 謝罪します!


 どうか、ミス=コションも貴族令嬢として相応しき行動をお願いします!」


 魂の抜けた様な豚嬢はそれを聞いて言った。


 「ゴメン……………なさい。


 だって……私より出来るなんて………………


 私は『立派な娘』なのに。


 負けちゃうなんて……………」


 うわ言の様にそう言いながら彼女は沈み始めた。


 限界だ。


 「コション!」


 飛び込もうとする彼女を引き留める。


 「待て、シェリー君。


 ここから飛び降りても君はどうやって上がる気だ?


 それに、この広さでは君が彼女を水底に沈める重石になりかねんよ。」


 「では……………如何すれば⁉」


 こちらもこちらでパニックを起こしかけている。


 「落ち着け。シェリー君。


 まずはその木に生えている蔦を取り給え。


 ……………えぇい。替わろう!」




 フッ




 先ずは木に巻き付いた蔦をナイフで切る。


 次に、それを近くの木の幹に引っ掻ける。


 一端は余りを作った状態で自分に縛り付け、


 一端は自分の手に持つ。






 滑車の方式で滑り降りる。


 幸い、未だ彼女は沈み切っていなかった。


 体を縛り、余らせておいた蔦を豚嬢に縛り付け、もう片方の蔦を引っ張る。


 二人分は流石にキツイものが有るが、井戸の壁の頑丈な部分に足を掻け、登っていく。












 井戸から這い出す頃には、夕日が沈もうとしていた。


 「教授…………ありがとう…………御座います…………………………」


 頭の中で意識が途絶えたのが解る。


 緊張の糸が切れた様だ。








 「ん…………………ここ……は?」


 豚嬢も目を覚ました。


 不幸な事に、どうやらピンピンしていた。


 「ここは……………確か私は、モリアーティーを追いかけて…………井戸に落ちて………………あら?ミス=モリアーティー?どうされたの?ぐしょ濡れで……………」


 言動がおかしい。


 忘れたのか?あのトラウマものの経験を。


 「まさか………………あなたが助けてくれたの⁉


 有難う!」


 ヒシと抱擁をして来た。


 「ごめんなさい!ごめんなさい!


 あなたにあんな酷いことを言って!


 それなのに助けてくれて………ありがとう!」


 濡れ鼠同士が井戸の前で抱擁をするという、奇妙な絵面が出来上がった。
























 ここから、豚嬢とモリアーティーの戦いは終わり、二人の間に友情が育まれる事となった。




後書き>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>





 おめでとう。豚嬢ことポーグレット=ホエイ=コションが仲間になった。








 


 有り難う御座います!


 後はエピローグを一つ書いてお仕舞です。


 オマケ程度ですが、最期までお付き合い下さい。

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