第6話 小話 シンデレラは舞踏会で踊れない
舞踏会の招待状が舞い込んだ。チケットは六枚――。
えっなんのことだって?わかりやすく言おう。
顧問の先生同士の繋がりで、南中、西中、K高、S校の四校で、合同練習会が行われるのだ。ただし、中学は一校一チーム、六名まで。審判と雑用で二名。
ふふふ…。この一色優斗、部内ランキングは三位。
チケットゲットしました――!王子様(高校生の強い人達)待っていて、優斗が参りまーす。
チーム戦も楽しみだが、絶対自由練習タイムがあるだろう。
中学のやつらはみんな、この前、金城さんがオレの相手をしてくれたから、彼が中学生でも対戦してくれる優しい人だと思っている。卓球は格上の人とやりたいものだ。だけど、遠慮して言えない。格上の人も、お願いされればやる気があるってことで対戦してくれることが多いが、自分から格下にはあまり声を掛けない。そこにオレのつけこむ隙があるのだ。
高校生には、金城さんの他に、部長の荒木さんや、S校にも強い人がいる。
みんなが金城さんに群がってる隙に、別の王子様をゲットだぜ!
ああ、楽しみ――!何着ていこう。ユニホーム、一着しかないけど。
脳内舞踏会が開催されているとき、顧問の先生の衝撃の一言が降ってきた。
「今回の合同練習会に参加できるのは、部内でこの前の中間テスト順位上位六名だ。」
なんだってー!ここ、卓球部なのに!
「先生は、卓球さえ強ければいい、という考え方は嫌いだ。今回は、勉強を頑張っている人を優先することにした。」
地味に頑張ってきた、アイツとソイツとコイツたちが大喜びしている。
うちの卓球部は三年だけで学年トップ10が、3人もいる!卓球は技術も大切だが、頭脳戦も侮れないくらい重要だ。地味でもっさりした集団にとんでもなく賢いやつが高確率で混じっていることはよくある話だ。
「優斗、残念だったな。」
「フン、今回は中学でピン球でも磨いてろ。」
「金城君の相手は、僕達だから。」
いつもはいいやつらなのに、舞い上がったのかシンデレラの意地悪なお姉さんのようなセリフを吐いている。
オレは辛うじて魔法のかかっていないシンデレラ(審判要員)として練習会に参加することになった。
ピン球が飛び交う体育館で、オレは下唇をかんで審判を続けた。王子様達と嬉しそうに踊る(真剣に対戦する)意地悪なお姉さんたち(テスト上位者)が恨めしい。
自由練習では案の定、金城さんや荒木さんが中学生にもみくちゃにされている。
金城さんは僕の兄も同然、というか大学のために県外に下宿していて存在が消されている実兄より兄貴そのものなのに。
デブだった姉ちゃんが金城さんをゲットした時、オレは衝撃のあまり言葉が出なかった。ああ、金城さん、シンデレラ(オレ)はここです、気づいて…。
その時、オレは、そばで同じように壁の花になっているやつに気づいた。前髪が長めで、ぱっとしない地味なやつ。背中のゼッケンを見ると、西中の鈴木…。あんまり知らないやつだな。でも、西中は今、クラブチームに入ってるメチャクチャ強いやつが二人いて、他がかすんでいたっけ…。時間もあるし、同じ壁の花同士だしと声を掛けることにした。
「オレ、南中の一色優斗、鈴木君、一緒にやらない?」
「うん、いいよ。翔太って呼んで。僕も優斗っていっていい?」
オレたちは、一番隅っこの台でラリーをはじめた。翔太は何でもそつなくこなし、打ち合っていて気持ちが良かった。あいつの方がオレより上手いのか…。カットをしても、確実に返球してくるし、コースも厳しい。
「おい、シンデレラ、こんな隅っこで何してんの?王子様と踊れた?」
頭のいいやつって、ホント上手いこと言うよな。意地悪なお姉さんそのものだよ。
「お姉さま方、ちゃんと掃除(審判)は致しましたわ。って、ねえ、ダブルスやんない?オレ、翔太と組むから。」
ダブルスはチームの上位陣が適当に相性を見ながら組む。はっきりとペアが固定されていることはあまりない。
ロングサーブとショートサーブのサインだけ決めて、始める。
あっ、動きやすい。初めて組んだとは思えない。
言いたいことがあっても、翔太を見ると、わかった、というようにうなずく。
お互い邪魔することも、出過ぎることもなく、信頼できそうな気持ち。
ダブルスって面白い!
意地悪お姉さんペアは、シンデレラ(オレと翔太)ペアにあっけなくやっつけられた。
「優斗と翔太じゃん。」
金城王子様、遅いよ。
オレは最近、金城さんに呼び捨てにされるようになったのに、翔太は…。
後輩か。しょうがないな。
「へぇ、ダブルスやってんの。おい、金城、二人で一丁もんでやるか。」
ギャー荒木さんだ。王子様が二人も!
王子様ペアとシンデレラペアは結構いい勝負ができたがオレたちが負けた。
「お前ら、結構いいペアになりそうだな。来年、うちに来いよ。」
「「はい、行きます。」」
帰る前に翔太に声を掛けた。
「翔太、オレ、高校でお前と卓球したい。一緒の高校に行こうな。」
翔太との出会いは爽やかな青春の始まりのはずだったのに…。
友香からのライン。
『今日は、優斗がありがとう。』
『僕は誰にでも公平だから。優斗以外の中学生とも練習したから気にしないで。』
『私のことは?♡』
『もちろん、えこひいきにあふれた特別です♡』
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