第6話 人生二度目

 待ち合わせの駅には人でごった返し、肩身の狭い思いをしながら、犬の銅像が建つ真横で待ち人を待った。煙草の吸い殻が足の隙間にあり、凜太は自然に顔が歪む。

「お待たせしました」

「それでは、参りましょうか」

 促す凜太の袖を掴み、明美はむっとした表情を浮かべている。

「あの、何か?」

「言うことはないのですか?」

「……別に待っていませんよ?」

「そうじゃなくて……もういいです」

「すみません、私は鈍いところがありまして」

「髪型変えました」

「ああ……とても良くお似合いだと思います」

「虚しくなりました。ありがとうございます」

 機嫌を損ねてしまった事実を恥じ、凜太は先を歩く明美を追う。薔薇柄のワンピースは後ろ影であってもいやに目立ち、探偵業としては上手くない。

「そういえば、ホテルの場所は此処から遠いのですか?」

「少し離れています。私も行ったことがないので判りません。あなたは?」

「まさか。ホテルなんて縁のない場所です」

 交番で道のりを尋ね、最短ルートでは小道を通るため、あえて交通量の多い道を選んだ。外国人旅行客はキャリーケースを引き、英語で何かを話している。

 ホテルに到着し六階のラウンジに行くと人はまばらで、これでは却って目立つのではないかと苦慮した。

「本当に探偵の真似事をするのですか?」

「今さら仰るの?」

「薫というお名前は、男性でも女性でもいます」

「私も、はっきりと浮気と疑っているわけではありません」

 ヨーロッパの有名な陶磁器に置かれたサンドウィッチを頬張り、待ち合わせ時間までに辛抱強く待った。長々とゆっくり腹を満たしても、ついに皿のサンドウィッチは無くなってしまった。

 やがて、高級ブランドのスーツに身を包んだ男がやってきた。背後にはつばの広い帽子を被った女性がいる。凜太は驚愕し、まじまじと女性に視線を送る。お盆の時期、霊園で出会った女性だった。女性は帽子を取ると隣の椅子に置き、凜太は初めて顔を見た。女性にしては強めで眼力のある視線は、誰かを彷彿とさせた。そしてその誰かは、凜太には見覚えがある。

「やっぱり浮気相手かもしれない」

「様子を見た方がいいです」

「そうじゃないの。私の母も、目力がとても強い人です。きっと父はそういう人が好みなんですわ」

「偶然ということも考えられます」

 凜太は自身に言い聞かせた。男性は回りを気にする素振りを見せるが、女性は堂々と足を組み、店員を呼んで何か注文をしている。席が遠く、何を話しているのか判らない。

 飲み物を一杯注文すると、二人は立ち上がり会計を済ませている。

「あなたは此処にいて下さい」

 凜太はひとりで追いかけた。彼らはエレベーターに乗り、下の階へ下りていく。場所は三階で止まり、しばらく動かなかった。

「すみません、このホテルの三階に食事処はございますか?」

「いえ、宿泊施設のみとなっております」

 ホテルマンの答えがすべてだった。

「父は何処へ?」

「三階です。部屋までは判りませんが、エレベーターはそこで止まりました。宿泊施設しかないそうです」

 明美の顔に緊張が走る。男女が同じ部屋で過ごすなど、凜太でさえ経験上理解している。

「私……父が部屋から出てくるのを待ちます」

「知らないふりも、家族のためになる場合があります」

「どういうことですか?」

「そのままの意味です」

「私が我慢して、家族を崩壊させないようにしろと?」

「そういう手もあるということです。決めるのは西条さんですが、気になるのなら御家で質問された方が早いと思います」

「そう致します」

 昼食代は凜太が払い、明美は財布を出す素振りも見せなかった。タクシーで帰る明美を送り、踵を返すと目の前にいた人物に、凜太は心臓が飛び出るほど驚いた。

「何してる?」

「淳之さん……どうして此処に?」

「奈々子から聞いたんだ。電話にも出ないから」

「すみません。ちょっと用事がありまして」

「一緒にいたのは誰だ?」

「私の教え子です。少々、色々ありまして。上手く説明出来ませんが、昼食をこちらで頂いていただけです」

「ふうん」

 淳之はじろりとホテルを見る。

「ホテルだから勘ぐりましたか?」

「少し」

「前科がありますからね。この後のご予定がないのなら、何処か寄り道しませんか?本日は茶の稽古をさぼりましたので、あまり長居は出来ませんが」

 凜太は早くこの場から離れたかった。ホテルには、恐らく凜太が想像している淳之と関係性のある女性がいる。

「サボってまで会ってたのか」

「ええ。ですので、今この状況で誰かに見つかってしまいますと、淳之さんが連れ回していたと誤解されます」

「俺は構わない」

「駄目です。あなたの立場が悪くなる」

 凜太にとって、それだけは絶対に避けたかった。

「人目に付かない処にでも……」

 ホテルの自動ドアが開き、ピンヒールが地面を蹴る音がした。長身の男性と女性が並んでいるが、少し女性の方が高く、つばの大きな帽子に顔を隠されている。女性は少し顔を傾け、凜太の顔を見た。

 凜太は避けたが、淳之は女性を睨みつけたまま、立ち尽くしている。目には怨恨のような憎々しさが滲み出ていた。

「なんで、アンタがいるんだよ」

 絞り出した声はよりいっそう低くなる。

「淳之……」

「どういうことだ」

「大きくなったわね」

 やはり、血縁者だった。パンドラの箱を開けられ、頭に血が上っていく。

「そんなことを言う資格なんて、私にはないわね」

「ねえよ、少しも。今さら母親とも思えない」

 女性は隣にいる男性に何やら耳打ちすると、男性は凜太に頭を下げ何処かへ行ってしまった。

「凜太、この女と関係があるのか」

「………………」

「凜太、答えてくれ」

 誤魔化すより答えるべきだと判断し、凜太は掻い摘まんで説明をした。

「ご用件があったのは、そちらの女性ではありません。男性の方です。私は、依頼を受けて男性を追ってきました」

「こいつとは知り合いじゃないんだな?」

 淳之は責めるように、凜太に詰め寄った。

「知り合いじゃないわ。淳之、落ち着いて。お連れの方が怖がってる」

 女性の目は余計なことを言うな、だ。肯定も否定も出来ず、俯いた。

「それで、家庭を捨てたアンタがなんでホテルにいるんだよ」

「好きな人とホテルにいただけよ」

「へえ、好きな人」

 やはり、と心の中でうんざりした。

「ごめんね。きっと家庭は大変だったでしょう?でも私は恋に生きたいの。あなたのお父さんは子供が生まれてから私を女として見てくれなかった。それがとても辛かったの」

 勝手な言い分に凜太の顔は高揚し、息苦しさから淳之の袖を掴んだ。何度呼吸をしても楽にはならない。むしろ苦しさが増す一方だった。

「凜太?」

「いえ……大丈夫です」

「発作か?薬あるか?」

「鞄……袋の中」

「待ってろ」

「まあ……どうしましょう」

 女性はおろおろするばかりの中、淳之は巾着袋から取り出した薬を凜太に咥えさせた。凜太を抱き留め地面に寝かせてやると、道行く人々が騒ぎに気づくが立ち止まる者はいない。

 ホテルマンが出てきて、医務室へ案内された。淳之は凜太を軽々と抱きかかえると、ホテルマンの後をついていく。淳之は喘息の発作だと説明し、椅子に腰を下ろした。

 薬品の香りは緊張を高める。これは物心がついた頃から変わっていなかった。薬のおかげか落ち着きを取り戻すが、朦々とした目は淳之の輪郭さえも捉えられない。

「あなたに、嘘を付きました。あの女性と会ったことがあるのです。夏に、霊園で。八重澤のお墓を聞かれ、知らないと言いました」

「会ったのは偶然なんだろ?」

「はい。一緒にいた男性に用があったのは本当です。僕ではなく、誘ってきた教え子が」

「まだ何か隠してる?」

「……男性は、僕の教え子の父です。浮気をしている可能性があるためついてきてほしいと言われ、先回りして待ち伏せしていました。今日、茶道教室の日でした。初めてさぼりました」

「合点がいった。実は、お前が茶道教室をサボったのは春子さんにバレてる。家に電話が掛かってきて、知らないか尋ねられた。その後に奈々子から聞いたんだ」

「家元は」

「聞いたらまだ帰ってきてないってよ。バレてないはず」

 ドアのノック音に返事をすると、入ってきたのは淳之の母親だ。険しい顔に戻り、淳之は見向きもしなかった。

「凜太さんと言うのね。淳之がお世話になっています」

「こちらこそ、いつも助けて頂いております」

「淳之とはお友達なのね?」

 喉まで出掛かった声を飲み込んだ。曖昧で儚い関係は、友人と呼ぶには相応しくない。何度も交わした口付けは友人以上の危うい行為だ。

「違う。恋人だ」

「え?」

「母親面するな。俺の家も凜太の家にも二度と関わらないでくれ」

 指先がぴくぴくと動き、頭の中が真っ白になった。

「敦史は、このこと」

「帰れ」

「淳之、道を外れたらダメ。私ね、淳之のこと雑誌でいつも」

「帰れ。凜太の具合が悪くなる」

 凜太は空咳を何とか繰り返し、うずくまりながら薬に手を伸ばした。

「凜太」

「大丈夫です。少し驚いただけです」

 女性は一揖すると、淳之を名残惜しそうに見つめ部屋を後にした。反射したヒールの音が遠ざかるのを聞き、凜太は頭を振った。

「ご心配おかけしました。本当に平気ですから」

「心臓に悪いから止めてくれ」

「だってあなたが辛そうな顔をするから。こうすれば、出ていってもらえるかと思って」

「……助かったけど」

 お互い居心地の悪さからか、妙にそわそわしていた。最初に口を開いたのは、凜太だ。

「ずっと会っていなかったのですか?」

「ガキの頃、母親と親父はよく喧嘩してた。喧嘩の内容はあんまり覚えてないんだけど、河原でサッカーやって泥だらけで帰ると、言い合いばっかりだった。こっそり玄関を開けて部屋に行こうとしても、気づいてくれたのはいつも親父で、土塗れの服を洗濯してくれたのも親父だった」

「素敵なお父上ですね」

「ああ。しばらくして母親が帰って来なくなって、気づいたのは一週間くらい経ってからだった。母親のこと、何も聞かないのかって質問されて、そういえばしばらく会ってないなって思って。帰って来なくなるのはいつものことだったから、気にも留めてなかったんだ」

 汗ばんだ手を握り締めると、淳之の眉間にいくらか和らぎが戻った。

「私のこと、話して良かったのですか?」

「売り言葉に買い言葉というか……つい。色々考えたんだけどよ、やっぱり隠すの無理だわ」

「せめて、学校のご友人には言わないようお願いします」

「そんなに言いたくないのか?」

「はい。どうなるかなんて目に見えています。岡田さんの反応が正しい」

「いずれ親父にもちゃんと紹介するつもりだけど」

「数年お付き合い出来たら言って下さい。それにまだ交際はしておりません」

「まだ言うのか」

 じゃれ合いの延長戦のようなもので、色味が増した熱い視線が絡み、重なり合った。


「先週は、申し訳ございませんでした」

 凜太が茶室に入るなり、明美は地に頭を伏せ許しを乞う。

「顔を上げて下さい」

「家元に、叱られたと伺いました」

「慣れております。それに、私が決めたことですから」

「誘ったのは私ですのに、先生はご自身が誘ったと話しました」

 凜太は湯で茶碗を温め、お点前を始めた。

「お気になさらず。そう話せば、丸く収まります。お父上とは、その後いかがですか?お菓子をどうぞ。こちらは有平糖です」

 話を逸らすために、凜太はわざと話題を変えた。

「先生は黙っているのも手段の一つだと仰いました。けれど、やはり私には出来ません。張っていたことも、すべてを話しました」

 棗から二杓ほど茶碗に入れ、蓋を閉め茶杓をその上に置いた。

「父は素直に謝りました。けれど、これは母も知ってのことだと。知っている上で、他の女性と宿の一室で共にしたのです」

 お湯を入れ、泡立てるように茶筅を動かす。集中しているため、明美は一旦話を止めた。最後にのの字をかきながら抜き、茶筅を置いた。

「そういえば、表千家とは点て方が違うのですね」

「表千家はあまり泡立てません。茶筅を取るとき、茶碗の表面には三日月の湖沼ができるのが上手な点て方と言われております。本日は作法も何もあったものではありませんね。家元にもし知られたら、茶教室をさぼったことより、作法が出来ていないことの方が叱られます。本日はお好きにお召し上がり下さい」

「ありがとうございます」

 茶碗を回す手付きは手慣れたもので、明美は飲み干し、美味しいと漏らした。

「先ほどの続きを話しましょう。有平糖を召し上がりながらで結構です」

「あなたは家族であり続けるために、私が知らないふりをするのも手だと仰いました。浮気を許す母も、父も理解が出来ません。それは私がまだ子供だからでしょうか」

「大人でも浮気は許せない人もいますし、あなたの母上のような方もいます。西条さんの常識を、押し付けるべきではないと思います。恋愛は人それぞれです」

「では、私が間違っていると?」

 言葉の節々が強くなった。

「そうは申しておりません。ところで、あなたは絵の具か何かを扱いましたか?」

「鼻が良いのですね」

「知り合いにもそう言われたことがあります」

「午前中は大学の文化祭の準備をしておりました。私にも臭いが移ったのでしょう。来週ですが、ぜひ先生にも来て頂きたいわ」

 凜太はふと考え、まっすぐに目を向けた。

「私は先ほど、恋愛は人それぞれと申しました。それが正しいかは判りません。そうでありたい、という私の願望です。文化祭ですが、私の想う方を連れてぜひ参りたいと思います」

「先生の恋人ですか?」

「そう呼ぶには相応しいかどうか。あなたの内情を知ってしまった以上、フェアではないと考えました。私の秘密もお教え致します。連れが行けない場合、私も行くのは止めますので」

「ぜひ、お待ちしていますわ」

「恋愛の形は人それぞれだということを、どうか頭に入れて下さい」

 有平糖はあまり好みではなかったのか、懐紙にはまだ数個残っていた。




 生徒の笑い声が溢れ、出店前を通ると捕まりそうになるたびに、淳之は庇う。

「身体が大きいと便利ですね」

「壁かよ」

 触れた指先から熱が伝わり、凜太は先端を震わせた。

「大学生って大人って感じがするな」

「きっと、大学生になったら社会人が大人で、自分はまだまだ子供だと感じるんでしょうね」

「食べたいものはあるか?」

「……ケーキ」

「喫茶店だな」

「私の教え子がぜひ来てほしいと、無料券を二枚頂きました。ケーキの種類は選べませんが、飲み物付きです」

「それは別の意味でも楽しみだ。ホヤとケーキ、どっちが好き?」

「ホヤ」

 建物の中に入ると人の多さに心臓が高鳴りだし、無意識のうちに左胸を押さえた。気づいた淳之は立ち止まり、壁際に寄る。

「いえ、違います。驚いただけです。人が多かったもので」

「薬は持ってきてるか?」

「あります。飲み薬と吸入器を。もう大丈夫です。ケーキが食べたくて仕方ないのですよ」

「美味しさに倒れるなよ」

 階段を上がるとき、淳之は手を差し伸べた。重ねようか戸惑いを見せる凜太の手を掴み、一歩ずつ上がっていく。横を通る女子生徒は一瞥しただけで、特に驚いた様子は見せない。

 壁には部を紹介するポスターが貼られ、淳之はサッカー部の貼り紙に目を向けた。

 身体の大きな男性がメイド服を着て、呼び込みを行っている。A型のメニューボードには、数種類のケーキと飲み物が書かれていた。

「此処のようです」

「教え子がいるんだろ?緊張してきた」

「この前ホテルで会った方です。知らないふりをするよう、伝えておりますので」

「なんで?」

 淳之の質問には答えず、凜太は教室の中へ足を踏み入れた。少々混み合っているが、座れないほどではない。窓際の席に腰掛け、窓の向こうを眺めた。手垢の付いたあまり綺麗とは言えない窓に、蜻蛉が一匹止まっている。朱くぼってりとした腹を持ち、巻雲の広がる秋空によく映えた。

 無料券を渡してしばらくすると、ホットコーヒーと苺のショートケーキが運ばれてきた。

「人生二度目のケーキです」

「俺とでいいのか?」

「特別な人と特別な菓子を頂けるのですから、悔いはありません。例え明日が無くなろうとも」

「寂しい言い方するなよ」

「第三次世界大戦がいつ勃発するのかも判りませんので」

 真っ赤な苺に生クリームをたっぷり乗せれば、酸味が幾分か和らいだ。

「なんで酸っぱい苺使うか知ってる?」

「さあ……」

「ケーキが甘いから、苺は酸っぱいものを使って味のバランス取ってるらしい」

「確かに。酸っぱいものの方がいいですね。苺は、美味しい。甘くても酸っぱくても」

 淳之はケーキの上に乗った苺を、綺麗に無くなった生クリームの上に乗せた。白と赤の色合いが元通りになる。凜太は静かに口を開いた。

「昔、親戚中が集まったりすると、決まって僕のお皿は空になりました。好きなものも盗られてしまうのです」

「凜太は何も言わないのか?他の大人たちは?」

「今以上に喘息も酷かったですし、声を上げれば呼吸も上がり、倒れます。そういう中で育った私は異様に見えたのでしょう。大人たちの見ていないところで、行われました。ただ、一人だけ庇ってくれた人がいたんです。姉さんでした。子供でも年上相手でも容赦が無かった。年上の大柄なガキ大将の胸元を掴んでいるところを家元に知られ、姉がこっぴどく怒られました」

「優しい姉さんだな」

「はい。盗られることはあっても、こうしてご自分の分を分けて頂いたのは初めての経験です。とても嬉しい。なんだか……私の食べた苺より甘い気がします」

 冷めつつあるコーヒーも飲んで腹を満たし、ふたりは席を立った。視線の先には西条明美がいて、信じられないものを見たと驚愕し、表情を歪めた。

 開放された屋上にはまばらに生徒がいて、木々にも隠れない、一番グラウンドが見える位置にやってきた。部活動は行われていないが、ライブを行うのか人が集まり出している。ステージ上にはスタンドマイクやドラム、ギターなどが置かれている。

「教え子の話ですが」

「うん?」

「今日、私の想い人を連れていきますと伝えていました」

「いいのかよ」

「教え子の家族のことを知ってしまったんです。これでフェアになりました」

「フェアかどうかは置いて、凜太の家族に知られたら」

「私は大丈夫です。相手も漏らしたりはしないはずです。秘密の共有ですから。それより、淳之さんも巻き込んでしまい、申し訳なく思っています」

「俺はいい。気にするな」

 強い風がふたりの間を吹き抜け、淳之は無意識に凜太を庇った。

「一緒に来られて、嬉しい」

「凜太の隣は、心地良いよ」

 回りを見渡すと、低密度であっても生徒はいる。口を合わせたい欲求が湧くが、淳之はぐっと我慢した。

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