第109話 愛を知る

山肌を駆けあがる桜色が頂上までも彩り始め

また新たに時が流れていることを知る

コートを脱ぎ捨てた体はまだほんの少し寒く

それでも降り注ぐ日差しは柔らかい


何となく季節に乗り遅れた気分の午後

今日もまたどこかで鳥が鳴いている


あれほどまでに鋭くこの身を刺した

冷たい風は今はどこへと向かうのか

ぬるい風に身を任せながら思うのは

過ぎることを願い暮らしたあの日々のこと


痛みを伴うほどにしんと冷えた静けさが

今なら分かる。確かに好きだった


来るべき日々はどんな形でどんな色で

待ち構えているのか分からないけれど

桜色が緑にかわりそしてさらに色を深め

やがて茶色く枯れていくその様を

ただ、見ていく。ただ、受け止める。

そして確かに愛していると知るのだろう

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