第79話 この手ができること
この手ができることなんて
ほんの些細なことだけで
精一杯指先まで伸ばして
できるだけたくさんのものを
抱きしめようとするけれど
小さな手からこぼれ落ちる
数々の過ぎ去った記憶たちが
目の端でキラキラと輝いて
それがまるで涙みたいに
揺らめいて見えるから
ああ、こんなにも哀しいのに
なぜ求めてしまうのかと
無力な自分を責めながら
せめて今この手の中にある
柔らかなぬくもりだけは
決して放すことのないようにと
握りしめたその手に
もう一度力を込めるのだ
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